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文学が告げる自我の変遷。閉じた世界へ内向する「私」の行方

明治大学 文学部 准教授 伊藤 氏貴

世界中から傷つけ傷つけられる経験を

 社会の中で他者と全人的に関わろうとするならば、その他者から傷つけられ、あるいは傷つける経験を余儀なくされます。外の世界で傷つき、内側に戻る。修復したら、また外へ出ていく。本来あるべきそうしたプロセスが希薄化しているのが現在だといえます。
 本学の卒業生でもある作家の羽田圭介氏は、就職活動で初めて、他者から傷つけられる経験に直面する若者を、その作品の中で描いています。
 しかし、就職活動の時ではもう遅すぎる。藝術でも何でもそうですが、若い時に大きく「心が折れる」、傷つく経験が必要です。まだ修復力がある若いうちに、いい意味で傷つけあうこと。悔しい思いやつらい経験を、早くに知っておくこと。そして、まったく自分の知らなかった外の世界に出ていくこと。そうした経験を早くにしなければ、世界が小さいままで終わってしまいます。

より寛容で弾性の高い社会へ

 一方で社会の側も、若い人への制度的な支援を始めています。
 たとえば、若者の非婚化に対して婚活を支援するといった試みですが、当の若い人々が恋愛をしなくなっている今、それらは問題の片方の面しか見ていない、と言わざるをえません。彼らの感性や考え方がどう変わったのか。人々の心の変化というもう一方の面も見なければ、社会の問題に見極めがつかないのではないかと思います。
 また昨今、企業のコンプライアンスの遵守も重視されるようになってきましたが、その一方で、もっと寛容な社会を、弾性の高い社会を目指すべきと考えます。ソーシャルメディアでの「炎上」が端的に示していますが、社会に充満する過大なストレスが、失敗を犯した者への極端なバッシング、社会制裁として噴出しています。これでは、若い人がますます内側に閉じこもってしまうばかりです。もっと緩やかで人を許しあえる社会になっていくのが望ましいのではないでしょうか。

※掲載内容は2013年11月時点の情報です。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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