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「改正・個人情報保護法」から、個人情報のビッグデータ化が本格化する

佐々木 秀智 佐々木 秀智 明治大学 法学部 教授

今年5月、改正個人情報保護法が全面施行されました。個人情報をビッグデータ化し、利活用が進められるといわれていて、不安を覚える人も多いかもしれません。改正の意図と内容とはどういったものなのか、あらためて検証してみましょう。

個人情報保護法の改正の目玉は「匿名加工情報」

佐々木 秀智 5月に全面施行された個人情報保護法案の改正のポイントは、3つあります。1つ目は、利活用の観点から個人情報の定義を明確にしたことです。その背景には、2005年に初めて個人情報保護法が施行されて以来、今日までの約10年間の運用の中で、過剰反応というものが見られたことがあります。例えば、個人情報はまったく使ってはいけないのだと思われ、町内会や学校のOB会などの名簿も作られないことが多くなりました。しかし、個人情報保護法には、個人のプライバシーや権利を守るという側面と、ルールに則って個人情報を使えば問題ない、という側面があるのです。その使っても良いという側面が一般には浸透しなかったため、今回の改正で、そこを明確にすることになりました。まず、従来は一律に個人情報としていたものを、「要配慮個人情報」、「個人情報」、「匿名加工情報」の3つに分けたのです。「要配慮個人情報」とは、個人の犯罪歴や病歴、社会的地位などの情報で、その個人に対する不当な差別や偏見などが生じないように、取り扱いに特に配慮が必要な情報です。管理をしっかりすることが求められますし、一般的には使えない情報といえるでしょう。「個人情報」は住所や電話番号などで、例えば、名簿の作成など、本人の同意があれば使うことも可能です。そして「匿名加工情報」は、個人情報に個人を特定できない加工を施したもので、積極的に利活用するためのものです。例えば、○○さん、45歳、男性、住所は東京都練馬区石神井町○-○、勤務先は東京都千代田区神田駿河台○-○、という個人情報を、個人名なし、40代、男性、練馬区に在住、千代田区に通勤、と加工すれば、本人の同意がなくても第三者に提供することができ、マーケティングや商品開発などに幅広く利活用することができるようになったのです。さらに、「要配慮個人情報」もしっかりと「匿名加工情報」にすることで利活用ができるようになります。例えば、病歴の情報は重要な医療情報になります。2016年1月に、がんと診断された人のデータは国で1つにまとめて集計、分析、管理する「全国がん登録」という制度が始まっています。こうしたデータも匿名化することで、治療や生活改善指導などに利活用することが期待できるのです。このように、従来は使って良いのかダメなのか曖昧だった個人情報を、しっかりと分けて定義したことで、個人情報保護が強化されるとともに、個人情報がビッグデータとして様々な形で利活用することができるようになったのです。

 2つ目の改正ポイントは、個人情報保護委員会を新設したことです。従来は、マイナンバーの利用を規律する機関として特定個人情報保護委員会がありましたが、同委員会を改組した個人情報保護委員会は、マイナンバーを含め、個人情報一般を規律します。例えば、先ほど述べた「匿名加工情報」の加工のガイドラインも、この個人情報保護委員会が出しています。こうした専門機関が新設された背景には、個人情報保護に関して専門の機関が必要だとする国際的な世論があります。日本に対しても、第三者機関をつくるようにとの要請がEUなどからあり、それに応える形となりました。このことは、3つ目の改正ポイントにつながってきます。いま日本は、APEC(アジア太平洋経済協力)などの国際的な枠組みの中で、個人情報保護の共通ルールづくりを積極的に進めています。世界のグローバル化が進み、多国籍企業が活動する現代では、個人情報も様々な形で越境します。国内だけでは個人情報の保護はできません。国際的なルールづくりにおいて、日本がリーダーシップをとっていくためにも、国際的世論や潮流を見据えた改正が必要だったのです。

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