オートファジーの分子機構を解明し、自在に制御できる技術確立をめざす
オートファジーの分子機構の扉を開いたのは、出芽酵母を用いた基礎研究でした。このリサイクルの仕組みが、ヒトのがんやアルツハイマー病などの病態に深く関わっていることが明らかになると、研究の主舞台は一気に医学分野へと広がりました。植物分野での研究は、長らくその後塵を拝してきましたが、今、状況は大きく変わりつつあります。過酷な環境を動かずに生き抜く植物だからこそ発達・進化させた、独自のオートファジー機構が次々と明らかになり、この分野の新たなフロンティアとして脚光を浴びているのです。
私たちの研究では、これまで変異体の観察によって「オートファジーが起こらない場合」の生理学的知見を積み重ねてきました。今後は分子機構に着目して、オートファジーそのものの詳細なメカニズムを明らかにしていきたいと考えています。さらに、オートファジーの活性化剤や抑制剤の開発にも前向きに取り組んでいます。オートファジーを自在に制御できるようになれば、種子や接木のほかにも応用の可能性が大きく拓けるでしょう。
たとえば、これは私の研究ではありませんが、花びらが散る仕組みにもオートファジーが関わっていることが知られています。花弁の付け根で局所的にオートファジーを抑制すれば、長く楽しめる花をつくることができるかもしれません。他には、オートファジーを活性化させることで植物そのものの劣化を遅らせることができる可能性があるため、野菜を新鮮な状態で長持ちさせ、フードロスの減少につなげることも考えられます。
生命の研究は、DNAやタンパク質の合成といった「組み立てる」プロセスに注目が集まりがちです。しかし、オートファジーはその対極にある、自らを「分解する」プロセスです。「壊すこと」が生命維持に深く関わっている、この逆説的な事実はそれ自体が驚きに満ちていますが、そこにはまだ無数の分子が織り成す未知のメカニズムが隠されており、私の探究心を強く突き動かします。このメカニズムを解き明かしたいという純粋な好奇心は、尽きることがありません。研究者としてこの科学の可能性を信じ、最終的には食の安定供給や環境保護など、目に見える形で社会の役に立てる未来を切り拓いていきたいと考えています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
