種子の保存、接木の効率化……オートファジーで農業生産を変える
近年、オートファジーが植物のさまざまな生命活動に関わっていることが明らかになってきました。私たちは、そうした知見を農業生産に応用するべく研究に取り組んでいます。ここでは、そのうちのいくつかをご紹介します。
ひとつは、種子の長期保存と品質向上に関する研究です。
植物の種子は、通常、ある程度長期間保存した後でも発芽する能力をもっています。しかし、オートファジー能を欠損した変異体の種子では、長期保存後の発芽率が通常よりも大幅に低下することを見つけました。そこで、種皮の内側に存在し、乾燥種子の胚を取り囲む生細胞である胚乳を調べたところ、酸化したタンパク質が蓄積し、細胞のほとんどが死んでしまっていたのです。つまり、種子には保存中も絶えずストレスがかかっており、長期間にわたって発芽能力を維持するにはオートファジーによる胚乳細胞のメンテナンスが欠かせないと考えられます。
そこでもし、種子の内部のオートファジーを人為的に制御することができれば、さらに長期間にわたって発芽率の高い状態で種子を保存することが可能になるでしょう。この技術は農業生産の効率を向上させるだけでなく、希少な植物の遺伝子資源を長期に渡って保存することにもつながります。
また、種子そのものの品質とオートファジーの関係についても研究しています。植物は種子を実らせる際、葉から種子へと栄養素を移し替えるのですが、このプロセスにもオートファジーが関わっていることがわかりました。たとえば、イネの種子ができるタイミングを見計らって葉のオートファジーを活性化させることで、より栄養価の高いお米を作ることができるかもしれません。
もうひとつは、接木の効率向上に関する研究です。
接木は、性質の異なる台木(土台となる植物)と穂木(花や実をつける植物)を接ぐことで、品質の良い作物を効率的に生産する大変重要な農業技術です。現在、トマト、ナス、スイカ、メロンなどほとんどの果菜類が接木によって生産されています。
この接木にもオートファジーが関わっていることがわかりました。植物の体に傷がつくと、植物は傷口付近に脱分化(特定の機能をもった細胞から、未分化な状態の細胞へ戻ること)した細胞を増殖させ、カルスという塊状の組織をつくって傷をふさごうとします。これは接木でも同じで、カルスが台木と穂木をくっつける接着剤のような役割を担っていると考えられます。私たちの研究では、穂木の切断面上部でオートファジーが活発になり、カルス形成を促していることをつきとめました。
オートファジーによってカルス形成が促される詳しいメカニズムはまだわかっていませんが、接合部分でオートファジーを活性化させることで、接木の効率を向上させることができると考えています。ゆくゆくは、今までは不可能だった植物同士の接ぎ木も可能になるかもしれません。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
