
現在の地球温暖化の主要因は、化石燃料の燃焼に伴う炭酸ガスの排出です。日本において、CO2など温室効果ガス排出量の4割強は発電由来であり、実質的にそれは火力発電によるものです。2011年の東日本大震災以降、日本の発電電力量に占める火力発電の割合は著しく増え、現状では6~7割を火力発電に頼っています。火力発電では、燃料の熱エネルギーを電気に変換する過程で大きな損失が生じ、総合熱効率は60%に届いていません。この変換効率を高めることは、温室効果ガス排出削減の観点からも重要と言えるでしょう。
太陽光発電の大量導入は、温室効果ガスの削減につながらない危険性がある
発電分野での地球温暖化防止というと、再生可能エネルギーばかりが取り上げられがちです。しかし同一コスト、所要時間において比較する場合、実際に温室効果ガスを最も減らす効果があるのは、火力発電所における運転の効率化だと考えます。
再生可能エネルギーのうち、陸上風力発電や水力発電などはすでに日本の地理的条件では、これ以上の発電所の増設は現実的でなく、今後最も増やせる可能性があるのは莫大な資金を要する大型洋上風力を除けば太陽光発電だけです。しかし、太陽光発電を大量に導入すれば、その不安定さのしわ寄せが火力発電に及び、無理な運転を強いられ、結果としてガス排出量の削減が思うようにいかないおそれもあるのです。
というのも、太陽光のような再生可能エネルギーの比率が高まると、気象条件によって発電量がランダムに変化します。負荷端からの発電電力が増えれば電圧は上昇し、発電電力が減れば電圧は低下しますが、一般的な電気製品は、電源や機器の出力端子で電圧が上下に変化する端子電圧変動に、10%程度しか耐えられません。これを超過すると保護装置が働いて負荷が遮断され、停電してしまいます。
こうした事態を避けるため、蓄電池によって需給調整する試みも進められています。しかし、導入量はまだ充分とは言えず、数時間から一日単位で生じるような、比較的ゆっくりとした発電電力の変動には対応しきれていません。そのため現状、こうした変動に対応するには、火力発電機の起動や停止が必要となり、多くの火力発電所では一日に2度、起動停止を行う運用が採られています。
火力発電所では、最も高い温度の部分で1000℃を超える高温にさらされており、上記のように太陽光発電の発電電力変動に対応して燃料消費量を高頻度で増減するとボイラーやタービンに熱疲労が生じます。これは材料の寿命消費を加速させます。加えて火力発電は定格、つまり発電電力が最大の場合に最も効率が高くなるようにできているので、定格近くの運転ができない時間が長くなり、燃料は多く必要になるうえ、温室効果ガスも多く排出されてしまうのです。
では、火力発電所を効率よく運用していくにはどうしたらいいのでしょうか。
アプローチの一つとして、エネルギー変換効率の向上が挙げられます。火力発電の効率は、タービンを回す高温の蒸気・燃焼ガスの温度と、排熱を受け取る外気や冷却水の温度との差で決まります。差が大きいほど、同じ燃料でもより多くの電気を取り出せるため、効率を高めるには燃焼温度を上げる必要があるのです。しかし、高温は設備材料の限界にぶつかります。材料が劣化したり、強度が保てなくなったりするためです。その壁を越えるには、材料技術の進歩が不可欠です。
とはいえ材料の研究はとても地道で厳しいものです。発電設備は数十年もの間、基本的に毎日使うものですから、このような長期間の繰り返しの負荷がかかったときに設備がどうなるかは、実験してみなければわかりません。材料の疲労に伴う影響を調べるために機械をずっと回し続けて実験データを取るのは大変であり、膨大な時間とコストを要します。
もう一つのアプローチとして、前述のようにハードウエアを改善する方向ではなく運用面つまりソフトウエアを改善するという方向性があります。こちらであれば、大きな先行投資や技術革新が必ずしも要るわけではありません。ソフトウエアの改善によって、大きな効果を得ることも可能です。あらかじめ今後想定される需要の変化が高精度に把握できていれば、不必要に多くの発電ユニットを待機運転させる必要がなくなります。需要変化に応じて相応のユニットを立ち上げ、あるいは解列・停止することができ、大部分のユニットを長時間定格運転の状態に置くことができるようになります。燃料消費量が抑えられ、温暖化ガスの排出量を減らせます。
AIを活用した需要予測など、火力発電所の運用面の改善が最適化の要
電力システムにおいて、発電量と消費量を常に一致させるために行われる「需給運用」では、電力需要がどのように変動するかを予測する技術がキーになります。予測の技術にはAI、たとえば人間の脳にある神経細胞(ニューロン)の仕組みを模倣した数理モデル「ニューラルネットワーク」により、過去のデータからパターンを学習し、予測を行う機械学習などが挙げられます。「この条件であれば、こういった電力の使われ方をする」と予測ができれば、さまざまな発電方法を最適な形で組み合わせていく検討も可能です。
発電の効率化、温室効果ガスの低減をめざすには、AIによる予測を活用しつつも、さまざまな技術を複合的に組み合わさなければなりません。システム工学の制御技術や経済的知見、昔からある最適化の手法も必要となってきます。現在の市場では、各自がさまざまな電力会社から電気を購入できるようになっており、需給の構造そのものも変化していますので、より複雑な要素が絡み合っています。
電力会社側でも、短時間であれば送電線に多めの電流を流す試みを始めています。従来の送電線には、何アンペアまでしか流せないという厳格な制限があったのですが、「今日は風が強く送電線を冷やしてくれる状態だから、流す電流を少し多めにしてもいい」といった具合に、制約条件をフレキシブルに緩和させるダイナミックレーティングの考え方が現実的になりつつあるのです。自然条件に合わせ、ある程度の柔軟性をもたせれば、より運用もしやすくなります。
さらに熱を使った発電には、熱力学的にどうしても効率の限界があるので、電気に変換したあとに、うまく制御することも大事です。先に蓄電池の導入量が充分ではないと述べましたが、もちろん研究開発は進められていますし、停車中の電気自動車を蓄電池がわりに利用するプロジェクトもいくつか走っています。火力発電では対応しにくい細かい制御を電池で行うなど、さまざまな手法を組み合わせることで、最適化に努めているところです。
再生可能エネルギーの安易な導入は、地球環境や他国に影響するおそれも
再生可能エネルギーはもちろん大事なものではありますが、安易に導入を進めようとするのは危険です。本来、地表や海水面に与えられていたエネルギーが失われることによる、環境への影響も懸念されます。
たとえば電力会社が大規模水力発電を行おうとする際には、当該水系に関する撤退的な調査が行われ、環境アセスメントは必須となります。それに引き換え、最近の太陽光の大量導入は、再生可能エネルギー最優先を「錦の御旗」として掲げることで、太陽光が土壌に及ぼしていた効果を十分検討しないままに認められてしまいました。
九州中央部にある阿蘇山には、大規模な太陽光発電設備「メガソーラー」が導入されたことで土地が痩せ、洪水が起こりやすくなったとも言われています。やはり再生可能エネルギーの導入であっても、地元の方々との話し合いを行い、環境アセスメントを充分に行ってから取り入れることが不可欠です。
風力発電分野で有名な例として、英国の北海における風力の大規模開発の影響で、オランダに吹く風が弱まり、国土水没の危険性が訴えられたことがあります。オランダは歴史的に風車で有名な国ですが、こうした風車は産業用動力としてばかりでなく、低地へ侵入する海水をくみ出す働きもしています。海から吹く風が弱まると、海水をくみ出す作用が低下し、高潮や海面上昇の影響を受けやすくなります。国土の多くが海面より低いオランダにとって、風の変化は治水にも直結する問題なのです。
電力面でも、風が弱まったことでオランダの風車が十分に回らず、風力発電が立ちゆかなくなる事態が生じました。その結果、英国からオランダへ送電線を設けて電力を融通することで、問題解決が図られることになりました。
中国大陸や東シナ海での大規模な風力開発も、日本に吹く偏西風に影響を与える危険性があるのではないでしょうか。気候や環境に対して人間の社会活動が与える影響について、どう考えるのかは難しい問題ですが、エネルギー保存則がある以上、一方の利益が、別の場所での負担や影響として現れる可能性は否定できません。全体をシステムとみなして、そこに関与する個別の要素の調整が必要なのです。
自然相手の問題は、人間が行うことほど規則通り決まった形で動いてくれるわけではないのが難しいところです。再生可能エネルギーも、地球の物理をよく考えて導入していくべきです。「温室効果ガス排出の主要因となっている火力発電は、できるだけ早く縮小すべきだ」と決めつけるのではなく、複眼的に最適解を追い求めていく柔軟性も、現状のエネルギー問題においては重要だと考えています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
