
2026年、建国250周年を迎えたアメリカでは、独立記念日に全米各地で盛大な祝賀行事が行われました。その一方で、国内ではかつてないほど政治的分断が深まり、民主主義や平等という建国の理念が揺らいでいます。11月に行われる中間選挙では、生成AIを使った情報戦が行われるなか、トランプ政権に対する有権者の評価が問われます。250年目のアメリカ社会はいま、どこへ向かおうとしているのでしょうか。
建国250年の祝賀ムードと、その裏にある分断
1776年7月4日にアメリカ独立宣言が採択されてから、2026年は250年という大きな節目の年に当たります。現代のアメリカでは国民の間で分断が進んでいます。そのため、パレードやコンサートなどの祝賀イベントが全米各地で開催されお祝いムードが広がった一方で、政治色が強すぎるという批判の声も上がりました。
7月4日当日、首都ワシントンでは、建国250周年を祝う大規模な花火ショーが予定されていましたが、イベントの途中に大雨が降り、参加者が一時避難する事態にもなりました。まさに「暗雲立ち込める」といったところですが、ショーは中止されず、トランプ大統領の演説とともに約84万発の花火がイベントの最後を飾りました。
トランプ大統領はこの日の演説で、アメリカについて「人類の歴史上、最も成功を収めた国家だ」と強調し、第二次世界大戦などにも触れながら「アメリカは勝者の国であり、今日、再び勝利を収めている」と述べ、ベネズエラやイランへの軍事作戦はいずれも成功していると自身の成果を主張しました。
また、11月の中間選挙を見据えて、党内で左派が勢いを増している野党・民主党を念頭に、「アメリカは決して共産主義の国にはならない」と牽制しました。大統領の演説はさながら選挙演説のような内容だったという批判もありました。
アメリカ独立宣言には、すべての人間は平等であり、生命、自由、幸福を追求する不可侵の権利を持つという崇高な理念が掲げられています。しかし、独立宣言を採択してから250年を経た現在のアメリカでは、その理念が揺らいでいます。7月4日を前にしてCATO研究所とモーニング・コンサルトが共同で行った世論調査では、回答者の57%がアメリカは建国の理念から遠ざかっていると感じています。
アメリカと言えば「アメリカン・ドリーム」をイメージする人も多いと思います。誰でも努力すれば成功するチャンスがある国、それがアメリカだと。今もそれはアメリカ人の多くが共有する価値観です。先ほどのCATO研究所とモーニング・コンサルトの世論調査によれば、回答者の61%がアメリカを「チャンスの国」であると見ており、74%が「アメリカン・ドリーム」は手に入ると信じています。
しかし、「アメリカン・ドリーム」は今や多くの移民にとって手に入りにくいものになっています。たとえば、第二次トランプ政権では、不法移民の取り締まりが強化されています。今年は、ICE(移民・関税捜査局)の強硬な摘発によりアメリカ市民が発砲され死亡した例や捜査官の指示に「従わなかった」として移民が射殺された例が相次ぎ、ICEに対する非難の声が高まりデモが各地で起きました。
それから現在のビザの有効期間について、制度を悪用して長期的に滞在し続けるケースがあると主張し、トランプ政権は制度の見直しを進めています。2026年7月には、留学生や交流訪問者の滞在期間を原則として最長4年、報道関係者は最長240日として滞在期間を短縮すると発表しました。それを超える場合には申請と審査を必要とする規則変更を発表するなど外国人の管理を強化する狙いがあります。
自由と機会の国、アメリカはこれからどこへ向かうのでしょうか。その行方は11月に行われる中間選挙に大きく左右される可能性があります。
中間選挙:MAGA派の共和党と、民主社会主義者が台頭する民主党
2026年11月3日には中間選挙が実施されます。中間選挙は連邦議会の上院・下院の議員を選ぶ選挙で、4年ごとの大統領選の間に行われます。下院は435議席すべてが改選され、上院は100議席のうち約3分の1が改選されます。改選前の勢力は上下両院とも共和党が多数派で、大統領も共和党であるため、いわゆる「トリプルレッド」の状況にあります。
中間選挙は、現政権の2年間の実績に対する有権者の審判という意味合いも強い選挙です。リアルクリアポリティクスの世論調査では、9月13日時点で、トランプ大統領の支持率は39.2%、不支持率が57.6%となっています。大統領の支持率低迷が長く続いているためそれが中間選挙で共和党への逆風になるのではないかという見方が強くあります。
中間選挙の最大の争点は、やはり経済です。アメリカとイスラエルによるイラン攻撃の影響でエネルギー価格が高騰、それ以前から続く物価上昇に歯止めが効かず、有権者の不満は高まっています。
そのことを示す例として、2025年11月のニューヨーク市長選挙があります。この選挙では、民主社会主義者を自認する民主党のゾーラン・マムダニ氏が当選しました。
家賃がとくに高いニューヨーク市において、マムダニ氏は家賃の値上げ凍結や市営バスの無償化といった、若者や低所得者など経済的に厳しい状況にある人たちに向けた政策を掲げ、有権者の支持を得ました。
マムダニ氏に代表されるように、民主党内で民主社会主義を掲げる勢力が台頭していることは注目に値します。7月30日のCNNの報道によれば、民主党支持者と民主党寄りの成人のうち、民主社会主義者を自認する人の割合が3分の1に達したという世論調査もあります。一方、民主党の予備選で民主社会主義を主張する候補が躍進したことについて、共和党は「過激だ」として格好の攻撃材料にしています。
共和党では、トランプ大統領の岩盤支持層であるMAGA(Make America Great Again)派の人たちが、政権運営をどのように評価するかが選挙の鍵を握るでしょう。7月22日のPoliticoの記事によれば、MAGA派の半数は2026年5月時点では「イラン戦争には経済的損失に見合う価値がある」と考えていましたが、7月現在ではそう考えている人は3分の1強に過ぎないといいます。長年、トランプ大統領を熱狂的に支持してきたMAGA派の人々の間でもイラン戦争をめぐり、分裂の兆しが見えます。そのような中で、共和党は中間選挙では珍しい特別党大会を9月9日に開催し、トランプ大統領は党内の結束を訴えました。
もともと中間選挙は、歴史的に与党が議席を減らしやすい傾向があります。8月時点では、下院では民主党が優勢で、上院では共和党が有利との分析がありますが、上院でも民主党が激戦州の接戦を制して過半数を握るという可能性もゼロではありません。
もし両院で民主党が多数派を取ると、まず影響が及ぶのは予算や法律の制定です。また、閣僚などの人事には上院の承認が必要であるため、影響は避けられません。さらに大統領の弾劾も理論上はあり得ます。下院の過半数の賛成で弾劾訴追が決議された場合、上院で弾劾裁判が行われることになります(過去にトランプ氏は2回、弾劾訴追されています)。ただし、弾劾裁判では出席した上院議員の3分の2以上の賛成が有罪には必要となります。したがって現実には罷免まで持ち込むことは困難です。
中間選挙の結果、民主党内の民主社会主義者がさらなる伸長を見せれば、トランプ大統領およびMAGA派はそれに対する攻撃を強めていくでしょう。アメリカ国内の左右の分断がさらに深まっていく可能性は高いと思います。ただし、共和党の敗北の程度によっては、2年後の大統領選をにらんで党内におけるMAGA派の存在感が低下し、穏健派が台頭するなど、党内の構図が変化する可能性も考えられます。いずれにせよ、中間選挙の結果は今後のアメリカ政治に大きな影響を与えるでしょう。
生成AIの悪用に対する法整備の議論は日本にも波及する
中間選挙についてもう一つ注目すべき問題が、生成AIの悪用です。実際に、すでに生成AIを使って特定の候補者を非難する広告などの事例が出てきています。
2024年の大統領選は、アメリカでは「生成AI元年の選挙」ともいわれました。しかし当時と比べて、人々の日常生活に生成AIが浸透するとともにその性能は向上しており、現在ではAIが選挙戦にもたらす影響はより強まっていると考えられます。
前述のように中間選挙の主たる争点は経済政策ですが、選挙キャンペーンそのものについて有権者が正しい情報を受け取れるかという観点から見ると、生成AIは非常に大きな問題になります。
たとえば、テキサス州上院選の民主党候補であるジェームズ・タラリコ氏について、共和党上院議員全国委員会(NRSC)はXの公式アカウントで、タラリコ氏本人と見分けがつかない人物が過去に投稿したツイートを読み上げるディープフェイク動画を投稿しました。右下には小さく「AI GENERATED」と表示されていますが、よほど注意していなければ見逃してしまいます。

動画は生成AIによるディープフェイクである。
こうした状況がまかり通ってしまう理由の一つは、連邦レベルで包括的な生成AIの選挙キャンペーンへの利用に関する法規制が整備されていないことにあります。2024年の大統領選の際にも連邦レベルの法案を作るべきだという議論があり、実際に法案を提出した議員もいましたが、憲法修正第一条で保障されている表現の自由との関係もあって法案は成立していません。また、連邦選挙委員会は2024年9月、選挙広告におけるAIの利用について規則作成を行わないことを決めました。
このように連邦レベルでは規制が明確にならない一方、州レベルではそれぞれの州議会でさまざまな法律が制定されるようになり、現状は州ごとに規制が異なるいわゆる「パッチワーク状態」です。AIを選挙広告に用いた場合に開示義務がある州や選挙の前の一定期間に政治ディープフェイクが禁止される州、罰則規定がある州などまちまちです。AIの利用が増えることで、有権者にとってもさまざまな情報が混ざってしまい、何が事実で何が虚構なのかを見分けることが難しくなっています。
これまで、AIの生成によるディープフェイクのようなものに対抗するためには個々人のリテラシーを高めるべきだという見方がありました。もちろんメディアリテラシーの向上も重要ですが、現在の技術力を見ると、すでに個々人のリテラシーだけでどうにかできる段階にはないように思えます。メディアや第三者機関によるファクトチェックも不可欠ですし、連邦レベルでの法規制の整備も急ぐ必要があります。
アメリカで進む選挙キャンペーンにおける生成AI規制をめぐる議論は、日本にとっても無関係ではありません。連邦政府と州政府のどちらが、どこまで規制するのか。表現の自由と、選挙における正確な情報へのアクセスをどう両立させるのか。アメリカでの議論は、今後の日本におけるAIと選挙をめぐる議論にも、重要な示唆を与えるものになると思います。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
