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2022.06.17

アインシュタインはいかにしてアインシュタインになったのか

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アインシュタインの原動力も好奇心

 20世紀を代表する物理学者であるアインシュタインは、自らを天才ではなく、燃えるような好奇心があるだけだ、と語っています。実際、彼は様々なことに興味関心をもち、それを追求し抜く根気に優れていました。

 彼の若い頃からの論文や、読んでいた本などを検証すると、決して、ひらめきなどによって答えを得るのではなく、コツコツと勉強を重ね、小さなステップを積み上げながら新理論に到達していたことがわかります。

 例えば、自分の物理学上のアイディアを表現するために必要な数学のスキルが自分には欠けていると思えば、数学を一から勉強し直しているのです。

 また、アインシュタインも若い頃からすぐに認められたわけではなく、大学のポストを得られなかったため、特許局の職員として勤めていたことは有名です。

 その時代、定時で帰宅すると、自分の勉強や研究に没頭したり、友人を呼んで討論をしたり、勉強会を行っています。また、大学に職を得てからも、アインシュタインはかなりの自由時間に恵まれていたようです。

 つまり、なんらかの目標のための義務的な勉強や研究ではなく、余裕のある時間の中で、自らの興味関心を満たす活動が、いわば、アインシュタインの基礎を築き、後の、新理論の構築に繋がっているのだと思います。

 実際、彼の立てた理論の中でも有名な一般相対性理論は、宇宙全体の構造に関わる理論です。それは、自然界の仕組みを理解するために非常に面白い描像を提供しているのですが、それが私たちの生活にどう関わるのかといえば、おそらく、アインシュタイン自身も考えていないと思います。ある意味、非常に趣味的な話なのです。しかし、それが物理学をはじめとする自然科学の本質だと思います。

 ちなみに、いまでは私たちも利用しているGPSの技術は、この一般相対性理論が基になっています。でも、GPSが実用化されたのは、アインシュタインがこの理論を発表してから、およそ80年後のことです。

 「巨人の肩の上に立つ」という言葉がありますが、アインシュタインも、この巨人の肩の上に立つひとりだったと言えます。そして、その後の巨人の礎にもなっていると思います。

 ただ、留意したいのは、巨人を巨人たらしめているのは成功の歴史ばかりではありません。裾野を広くしないと山頂は高くならないと言います。アインシュタインも一直線に相対性理論に到達したのではなく、多くの試行錯誤を経ています。あらゆる研究者の様々なトライアルと失敗が積み重なってこそ、山頂も巨人の肩も高くなるのです。

 その意味では、多様なトライアルや失敗を許容することが、次世代のイノベーションに繋がると言えます。

 そうした科学の進み方を科学史的に研究していると、やはり、「選択と集中」に「集中」するいまの日本の科学技術施策は、あまり適切ではないと言わざるを得ないのです。

 「選択と集中」ではなく、むしろ、少なくなっても幅広く資金を配分し、その中にはまったく成果のない研究があったとしてもそれを許容し、多様な研究の萌芽を育てていくことが科学の進み方の理に適っていると言えます。

 近年、ノーベル賞の科学分野で日本人の受賞が続いていますが、受賞者の方々が研究を始めた頃の日本には、「選択と集中」という考え方はありませんでした。

 逆に、将来、なにに役立つのかわからないし、失敗ばかりだけど、面白いから続けてみようという余裕を、研究者に許容するような環境が、以前の日本にはあったのかもしれません。


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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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