明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

あなたが見てるものは、実際のものではなく、錯視かもしれない

杉原 厚吉 杉原 厚吉 明治大学 研究・知財戦略機構 先端数理科学インスティテュート 研究特別教授

交通事故の原因になる錯視

トランスキー錯視
トランスキー錯視

 錯視に対する認識が重要なのは、例えば、錯視によると思われる交通事故が実際に起きているからです。

 2016年の交通事故統計では、カーブでの死亡事故の半数以上が単独事故です。と言うと、それは、ただ、スピードの出し過ぎと思われがちですが、では、なぜ、カーブでスピードを出し過ぎたのでしょう。

 実は、道路の構造によってはカーブが実際よりも緩く見える錯視が起きる可能性があるのです。

 トランスキー錯視と呼ばれる錯視があります。これは、同じ大きさの円の円弧の一部を見せるとき、長い円弧を見せると急なカーブに見え、短い円弧を見せると緩いカーブに見える錯視です。

 例えば、遮音壁などが道路際まで迫っている高速道路や、トンネルの中でカーブがある場合、壁があるためにカーブの先が見えません。つまり、ドライバーに短い円弧を見せるような状況になります。すると、そのカーブは緩やかに見えるのです。

 もし、壁がなければ、カーブの先まで見通すことができ、それは長い円弧を見ることになり、カーブが急なことがわかるのです。

 しかし、壁などがあることでカーブが緩やかと見えれば、ドライバーは車を減速させずにカーブに入ってしまいます。つまり、ドライバーはスピードを出し過ぎているとは思っていないのです。

 しかし、こうしたトランスキー錯視が起こる道路構造であることがわかったからといって、遮音壁を撤去したり、トンネルの壁を広げたりすることは、現実的には難しいでしょう。

 そこで、「次のカーブは見かけより急です」など文字で注意を促す標識も設置すべきだと思いますが、文字が脳に届いて意味を理解するには時間がかかりますから、効果は限定的でしょう。

 また、道路や壁に絵を描くなどして、逆に、カーブが急であると見せる仕掛けもあります。しかし、それはドライバーを意図的に騙すことであり、それが本当に安全に繋がるのか、私は疑問に思っています。

 むしろ、大切なのは正しい情報をちゃんと知ることです。やはり、ドライバー自身が錯視のメカニズムの知識をもち、見たことがすべて正しいとは限らないことを理解しておくことが大切だと、私は考えます。

IT・科学の関連記事

植物のストレス耐性遺伝子が、食糧危機の救世主に

2024.2.1

植物のストレス耐性遺伝子が、食糧危機の救世主に

  • 明治大学 農学部 准教授
  • 高橋 直紀
数学的見地から、生物多様性の保全をはじめとする社会課題の解決へ

2023.12.7

数学的見地から、生物多様性の保全をはじめとする社会課題の解決へ

  • 明治大学 研究・知財戦略機構 特任教授
  • 中村 健一
中小企業のDX推進こそが日本経済再興のカギ

2023.11.2

中小企業のDX推進こそが日本経済再興のカギ

  • 明治大学 経営学部 教授
  • 岡田 浩一
完全自動運転のためのセンシング技術

2023.5.10

完全自動運転のためのセンシング技術

  • 明治大学 理工学部 准教授
  • 網嶋 武

新着記事

2024.03.21

ポストコロナ時代における地方金融機関の「新ビジネス」とは

2024.03.20

就職氷河期で変わった「当たり前の未来」

2024.03.14

「道の駅」には、地域活性化の拠点となるポテンシャルがある

2024.03.13

興味関心を深めて体系化させれば「道の駅」も学問になる

2024.03.07

行政法学で見る「AIの現在地」~規制と利活用の両面から

人気記事ランキング

1

2020.04.01

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

2

2023.12.20

漆の研究でコーヒーを科学する。異色の共同研究から考える、これか…

3

2023.09.12

【徹底討論】大人をしあわせにする、“学び続ける力”と“学び続けられ…

4

2023.12.25

【QuizKnock須貝さんと学ぶ】「愛ある金融」で社会が変わる、もっと…

5

2023.09.27

百聞は“一食”にしかず!藤森慎吾さんが衝撃体験した味覚メディアの…

連載記事