創薬に役立てるためのベーシックな研究を推進
実は、がん細胞に対する免疫にも、膜タンパク質が重要な役割を担っています。
それは、がん細胞は正常な細胞とは異なり、細胞の中に異物をたくさん作ります。その異物の小さな断片であるペプチドを、膜タンパク質は細胞の外に提示するのです。すると、免疫系の細胞がこのペプチドを認識し、がん細胞であることがわかると、これを攻撃するのです。
こうしたタンパク質の機能を詳細に解明していけば、がん細胞に対する免疫力を向上させるなんらかの方法を開発することができるかもしれません。そこでも、分子シミュレーションは重要な役割を果たすはずです。
また、新型コロナウイルスによるパンデミックを収束させるために、各国でワクチンなどの開発が進められていますが、そこでも分子シミュレーションは活用される可能性があります。
先にも述べたように、PDBデータバンクなど様々なデータベースがウェブ上で利用できます。シミュレーションに関しても、実際の生体状態を再現するには、タンパク質だけでなく水分子、脂質、糖鎖も含めた系のセットアップが必要で、これらのデータの公開やセットアップを行えるウェブサイトもあります。
くわえて最近、コロナウイルスに関しては、積極的にシミュレーションのセットアップのデータやトラジェクトリが公開され、世界中で利用できるようになっているものもあります。
パンデミックという状況の中で、現実社会ではソーシャルディスタンスが強調されていますが、ウェブの中では、協働を推進するような状況がつくられています。
とはいえ、分子シミュレーションを実際の創薬に役立てるには、もっと精度を高めていく必要もあります。そのためには、富岳など、スーパーコンピュータのような計算機やシミュレーション手法の開発など基盤技術の発展が欠かせません。
私自身の研究はまだまだ創薬に繋がる応用研究にはなっていませんが、シミュレーションの方法を開発やこれらを個別の系への適用をしていき、少しでも応用研究に繋がればと考えています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。