Meiji.net

2020.01.22

軽い!強い!錆びない!次世代構造材CFRPの用途を広げる

  • Share

世界中で研究されているCFRPの実用化を広げるための課題

 CFRPは、私たちにとって非常に可能性のある有用な材料ですが、一方で課題もあります。

 まず、実用の歴史が金属材料などと比べて非常に浅く、実験データの量や実証例が十分に存在しません。

 先ほど述べました通り、CFRPは設計自由度の高い材料で、繊維と樹脂の組み合わせや配向によって材料特性が変わります。世界中の企業は、自社のCFRP製品に最適な組み合わせを研究し適用しています。このCFRP特性データの取得には多大な時間と費用がかかるため、この研究開発データが公開されることはほとんどありません。

 材料そのものの公的データベースや材料特性データ取得法(標準試験法)等の試験規格の整備も金属材料と比較して遅れています。公開されているデータが少ないこと、そして標準的なデータ取得法が十分に整備されていないことは、CFRPが一般的な工業材料として広がらない一要因なのです。

 そのため、航空構造材料研究室では、JAXA航空技術部門や関係する大学、外部機関等と協力して、様々な種類のCFRP強度特性の取得や強度取得試験方法についての規格化を目指した研究を進めています。炭素繊維の生産量は日本の企業が突出していますが、それを用いたCFRP製品設計や製造技術、規格開発の面でも日本がリードできるよう、研究開発を推進していきたいと思います。

 次に、CFRPの実用化に対する課題としては、構造物を設計する際に、CFRP特有の注意が必要となることです。CFRPの壊れ方が金属材料とは大きく異なるのです。

 例えば、金属材料の板であれば一点に強い負荷がかかると大きく変形して凹みます。しかし、CFRP板の場合は打痕がつく程度であまり凹みません。ところが、打痕直下の層と層の間については、剥がれるように壊れてしまうのです。

 炭素繊維の強度は高くても、それらが重ねられた層と層を支える樹脂の強度が低いためです。この層間の破壊は、CFRP板としての強度を著しく低下させてしまいます。

 このような特性は、CFRPを航空機に使う場合、運航中に損傷を受けて強度低下した部分を目視点検では見つけにくいということを意味します。現在のCFRPを用いた航空機は、機体構造に目視で発見できないような損傷があっても、安全に飛行できるように設計されています。しかし、今後、さらに航空機の軽量化や安全性の向上を求められた場合、このようなCFRPの弱点を克服していくことが必要です。

 そこで、CFRP層間強度を向上させる研究や、内部に層間破壊や欠陥があってもCFRP板の強度を正確に予測し、設計精度を高める技術開発が進められています。この研究開発には、CFRP板が複雑に壊れていく様子を詳細に観察し、その現象に対して数値解析等を用いながら一つずつ考察を進めていくという地道な研究活動の繰り返しが必要となります。

 一方、CFRPの実用化や製品への適用を広げていくためには、CFRP製品に対する低コスト化と大量生産に対応する技術開発が必要です。現状では、炭素繊維と樹脂のついたシートを製品形状に積み重ねる作業(積層工程)や、CFRPを製品形状に硬化させる作業(成形硬化工程)に手間と時間がかかっています。

 CFRPは金属材料のように定まった機械特性を持つ材料からプレスや機械等で加工し製品に仕上げていくのではなく、いわば生の材料を積層し樹脂を硬化させることでCFRPの製品に仕上げていきますので、積層工程や成形硬化工程に時間がかかっているわけです。

 そのため、自動積層装置を用いて積層すると同時にCFRPとしての硬化が完了してしまうような技術(積層硬化同時成形技術)の開発が進められています。積層工程と成形硬化工程が合体されるのです。この製法の実用化に成功すれば、CFRPの製造が大幅に高速化され、コストダウンに繋がると期待されています。

 当研究室でも、自動積層機によるCFRPの積層硬化同時成形技術に関する基礎的な研究開発を推進しています。

 もうひとつの課題として、CFRP製品の使用後の処理をどうすればよいか、ということがあげられます。

 例えば、旅客機は一般的に約20年間使用しますが、リタイヤする(廃棄が決まる)と機体構造は重機等を用いて粉砕し、金属材料は材質ごとに分別されて再利用されていきます。しかし、CFRPに対しては、まだリサイクルの仕組みができていません。

 今後、CFRPは航空機だけでなく、自動車や日用品等、用途は大きく広がっていくと予想されています。CFRPの普及については、工業材料としての循環サイクルを確立しておくことも重要な課題であり、JAXA航空技術部門をはじめ、多くの大学や企業において研究開発が進められています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

  • Share

あわせて読みたい