2024.03.21
- 2019年1月16日
- IT・科学
自動作曲システム「Orpheus」は将来の芸術分野のひとつになる
嵯峨山 茂樹 明治大学 総合数理学部 教授(2019年3月退任)様々な音楽理論を備え、それに則って行う自動作曲
歌詞ができると、次に作曲を行います。ここでの基本的な考え方は、音楽要素はリズムやコード進行などに分解し、再構成できるということです。つまり、既存の楽曲から音楽要素を分解し、それらを別の組み合わせに組み立て直すと、別の曲になるということです。
しかし、ここで注意すべきは、いわゆるポップスといわれるものは、基本的に西洋音楽であり、そこには何百年の間に確立されていった伝統やルールがあり、理論化されていることです。それを守ることが質の良い音楽づくりに繋がります。
例えば、カノン進行というコード進行があります。これは、17世紀後半のドイツの作曲家ヨハン・パッヘルベルのカノンに出てくるコード進行で、日本では、これを使えば必ず良い音楽ができる魔法のコード進行などといわれ、実際、大ヒットしたJポップといわれる楽曲の多くにカノン進行が使われています。が、それは当然のことで、人を快適にするコード進行などは、西洋音楽においては確立されているのです。
音大の学生などはこうした音楽理論を学びますが、こうした学習はコンピュータの得意とするところで、「Orpheus」を使うと、一般の人でも、西洋音楽のルールをしっかり守った作曲をすることができます。
もうひとつ、注意すべきは、日本語の歌詞の韻律は旋律と非常に関係があるということです。
例えば、「明治」という単語を言うときは、メ・イ・ジに高・低・低のような音高をつけます。このような日本語の韻律を満たせば、耳にも自然なメロディになる確率が高くなるわけです。
日本語は合成語が作られやすく、ひとつの単語に別の単語が付いて、ひとつの単語になったりしますが、すると、アクセントが変化することがよくあります。
例えば、「大学」という単語単独では、低・高・高・高ですが、「明治大学」となると、単語の高低が反転して低・高・高・高・低・低・低となるのです。こうした歌詞の韻律を旋律に一致させることも、「Orpheus」は自動で行います。
そのような韻律パターンから、コード進行に合わせて旋律を作ります。たとえば、歌詞が「めいじ・だいがく」のとき、用いるコード進行がCメイジャー・Fメイジャーの順ならば、たとえば「ミソソ・ラファファファ」とすれば自然に聴こえます。
さらに、調、リズム、伴奏との関係なども、音楽理論や各種のルール、禁則に従った拘束条件に基づくとともに、質の良い音楽ができる確率が高くなるように組み合わせて旋律設計をするのですが、コード音以外も用いて滑らかな旋律を指定された音域の中で作り出すのはやや複雑な問題で、それをビタビ復号化アルゴリズムで解いています。
その他にも、テンポ、合成歌唱音声種類、伴奏楽器、伴奏音型、ドラムパターンなど、ユーザーがいろんな条件付けをすることもできます。
「Orpheus」には登録機能があり、コード進行などは多くのユーザーが書き込むことで、1800種くらいになっています。こうした音楽要素を活用し、楽曲を完成させ、楽譜を作り、合成歌唱音声で歌唱をつけて曲として完成させ、出力するのです。