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2018.06.27

人の心を理解できないロボットは、人に対して脅威となる!?

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複雑な人の心の動きを再現した「鏡像認知」実験

武野 純一 しかし、単純なプログラムでは、人の脳に比べて構造的に不十分です。実は、人のニューラルネットワークは独特で、自分自身がやっていることを検出できるという構造になっています。つまり、自分を意識するということです。この実験を行ったのが、「ロボットによる鏡像認知」です。鏡に映る自己像は、人でも2歳くらいにならないと自分とは認識できないといいます。赤ちゃんは見まね行動を通して学習するだけでなく、母親や自分をケアしてくれる周囲の人を認識し、それが他者(見まねの対象)と自己(見まねする自分)を区別する意識として確立していくということです。ところが、ロボットにとっては、鏡に映る自己像とは、自分のボディと繋がっていない点で他者であり、いつまでもその判断が変わることはありません。しかし、鏡に映る像の動きの情報を得るプログラムだけでなく、その鏡に映る像の動きが自分の動きと区別できないことを、特殊な情報と捉えられるプログラムを組み込むと、鏡に映る像は他者なのだが、特別な存在と認識することができたのです。逆にいえば、人が自分を意識するとは、行動や感情を司るニューラルネットワークを司るニューラルネットワークの働きであり、自己参照型のプログラムということです。実は、ロジック自体を取扱うロジック、メタロジックとか超論理といいますが、そうした構造をもっている人の概念をプログラムで表現した人はいませんでした。私は、それを下位のプログラムが動いている情報を上位のプログラムが取得しながら、そこに特定の情報(意味)を見つける(意識する)、セルフ・リファレンスのプログラムとして表現したのです。

 このプログラムにより、人の感情とか、創造の活動など、人の脳の機能の大半を説明できるようになりました。もちろん、すべてが解明できたわけではありません。例えば、フロイトの欲動説でいえば、人には生存の欲動があります。ロボットが人の心をもてば、同じように、存在し続けようとする機能をもつでしょう。ところが、人は大切ななにかを守らなくてはならないとき、自己犠牲を厭いません。なぜなのか。非常に難しいテーマです。しかし、このメカニズムが解明できれば、身を挺して人を守るロボットを作ることも可能になるかもしれません。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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