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人の心を理解できないロボットは、人に対して脅威となる!?

武野 純一 武野 純一 明治大学 名誉教授(元理工学部教授)

脳の働きをプログラムで表現する

 では、「人の心をもったロボット」とは、どんなロボットなのか。最近では、コミュニケーションロボットと呼ばれるものがすでに市販されていて、高齢者やひとり暮らしの人の話し相手などになっています。その姿を見ると、私の目指すロボットもその延長線上にあると思います。しかし、まったく異質なものともいえます。なぜなら、そのコミュニケーションロボットは、対応している相手を人と認識しているわけでもないし、ましてや、人の言葉が表わしている人の心を理解しているわけでもないからです。人の感情とはなにか、思考とはなにか、想像するとはどういうことか、創造するとはどういうことか、こうした考察がないまま、技術的にできるロボットを作っているだけだからです。つまり、人の感情とはなにかを解明し、それを組み込んだロボットを作ることが、いまのコミュニケーションロボットの延長線上の先にある私のロボットです。

 人の脳の働きについて、神経科学や生物学などの解明が進んでいます。すべて解明されたわけではありませんが、人工知能を研究する立場からすると、それは、ニューラルネットワークで構築されているといえます。例えば、人は、視覚や聴覚など、身体の様々なセンサーから得た情報を脳で処理し、それを基に脳は判断し、身体の各部分を動かしたり機能させています。この脳内の情報のやり取りをしているのがニューラルネットワークです。すると、それはプログラムといえるわけです。例えば、人には快と不快の感情があります。人がなんらかの情報を得たとき、それを処理するニューラルネットワークの動きがスムーズであれば快感、処理が停滞すると不快感となるとすれば、プログラムでも同じ設定をすることで、快と不快の感情を再現できることになります。例えば、情報の処理がスムーズで思い通りの活動ができているとき、ロボットはそれを快感とし、逆に、障害や予測外の事態が起こり、情報の処理が停滞してしまうと、それは不快とする、ということです。こうして、人の様々な感情や意識をプログラムで構築していくことが可能なのです。

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