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貨幣の3つの特性と機能

 貨幣が社会において先述のような役割を果すためには、3つの特性が必要となります。ひとつが、「一般的即時購買力」です。これは、いつでもどこでも、容易に物と交換できるということです。例えば、円であれば、日本の統治権が及ぶところであれば、どこででも、すぐに商品を購入できるわけです。2つ目が、「一般受容性」です。誰もが、それを通貨と認め、物との交換において受取ってくれる通用力があるということです。3つ目が、「支払い完了性」です。物との交換時点で直ちに支払いが完了することです。ちなみに、近年は支払い全般を決済と呼ぶようになっていますが、本来、決済とは、商品などを受取ったその場ではなく、後に支払いの処理をすることを意味します。つまり、同時点の支払いに対して、異時点の支払いが決済です。この特性がわかっていれば、預金口座で決済がなされ、商品購入時に支払い完了性がない電子マネーやクレジットカードは、完全貨幣とはいえないことがわかります。

 この、貨幣の3つの特性が、社会においてどう機能しているのか見ていくと、3つ挙げられます。ひとつが、「一般的支払い手段あるいは決済手段」です。貨幣は物の価格を設定し、物と交換ができ、さらに、誰とでも、いつでも、どこでも交換の支払い(決済)を完了させることができるわけです。2つ目が、「計算単位」です。物の価値を計る物差しであることです。これは非常に重要で、この物差しが急激に伸びたり縮んだりしては社会は混乱してしまいます。例えば、1万円は常に1万円の価値がなければなりません。ところが、1970年代の前半に20%を越えるインフレが起きました。1万円が8千円程度の価値になってしまったわけです。こうした急激なインフレや、1980年代後半のバブルといわれる現象や、その崩壊が起こると、不変であるべき物差しが伸びたり縮んだりしてしまい、私たちは混乱することになるのです。3つ目が、「価値貯蔵手段」です。一般的即時購買力という特性がきちんと確保されていれば、私たちは貨幣と物との交換を直ちに行わなくても良いわけです。つまり、将来の必要な購買のために、購買力という価値を蓄えることができるのです。金融資産保有による預金の割合が大きいのは、一般的即時購買力において、貨幣が他の金融資産よりも勝っているからといえます。

 この3つの特性と機能のすべてを備えているのが完全貨幣であり、何らかの特性が欠けていることで、3つの機能を果たせないものを、部分貨幣といいます。先述したように、電子マネーなどは部分貨幣であり、株式などの金融資産も完全貨幣とはいえないことがわかります。すると、完全貨幣ではない電子マネーや金融資産などでは、貨幣のように経済過程を効率化し、円滑化し、社会全体を大きく成長させることは、できないといえるのです。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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