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使えないロボットはもういらない。できるロボットを世に送り出す

黒田 洋司 黒田 洋司 明治大学 理工学部 教授

私自身がスタートアップを立ち上げ、チャレンジ中!!

黒田洋司 私は、昨年の10月に、SEQSENSE株式会社というスタートアップを立ち上げました。ロボット開発の研究費を支援してくれていた経産省のNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)プロジェクトに研究の実用化を迫られ、自分でマーケットを拓くしかないと思ったからです。ところが、さんざんプレゼンして回っても、立ち上げ時には一銭のファンドマネーも得られませんでした。事態が好転したのは、お金がなくてもまず会社組織を作り、ロボットのプロトタイプを作って実演してみせてからです。このロボットは、機体の各種センサーによって高精度の三次元地図を作り、ロボット自身が自分の位置を把握しながら自ら移動し、その間の情報は、例えば警備室などで待機している人がモニターで確認できる仕組みのロボットです。

 実は、こうした自律移動型ロボットを使ってデリバリーサービスをしようとしている人は世界中にいます。しかし、屋外や初めての場所に行くときの不確定要素に対応する機能や、道交法をクリアすることを考えると、実用化のハードルはとても高くなります。逆に、私有地内で、移動範囲も最初からわかっているという条件であれば、ハードルはグッと低くなります。例えば、このロボットが1回出動するごとの失敗率を1割程度にできたとしましょう。9割の稼働成功率であれば、大学での実験としては成功の部類に入ります。しかし、実用で1日3回稼働させると、1ヵ月で100回。その間に10回失敗してトラブルが起こると、3日に1回はメンテナンスに出動することになります。このロボットが100台売れたら、1000台売れたら…。これでは、会社がもちません。ロボットを製品と考える以上、失敗率は1万回に1回以下程度に抑える必要があります。そのためには、ロボット自体の性能を上げるだけでなく、一定の空間での稼働など、使用の条件も含めて考えなくてはなりません。エラーレートを抑えることを前提に、総合的に稼働方法を組立てることが商用につながるのです。その意味で、ハードルを下げられると判断したのが警備ロボットでした。

 さらに、様々な調査により、警備の業界は深刻な人手不足に陥っていることがわかりました。就職1人に対して、求人が15人ある現状で、2020年の東京オリンピックには、2万人の警備員が不足するといわれています。そうしたニーズにも応えられるのです。ロボット展で発表した際の警備業界の注目は大きく、すると、金融業界も反応し、ファンドマネーが集まるようになりました。今秋には実証試験がスタートし、来年の夏には、プチ商用運用を始める予定です。これによって実用ロボットのマーケットが拓け、日本のロボット開発が加速することを期待しています。

 先に、スタートアップの成功率は1割と述べましたが、アメリカでは1回の失敗でめげる人などいません。2回、3回とチャレンジします。すると、チャレンジ回数が増えるほど成功の確率が上がり、最終的には7割~8割の人が成功しています。そのため、失敗回数の多い人ほど、資金が集めやすくなるともいわれています。1回でも失敗すると、もう見向きもされなくなる日本とは大きな違いです。しかし、日本が世界のロボット開発レベルに追いつくには、スタートアップというチャレンジは欠かせないと考えます。まず、私自身が成功し、ロボットのマーケットを拓くとともに、スタートアップへの理解を広げ、チャレンジする人が増えるきっかけにしたいと考えています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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