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使えないロボットはもういらない。できるロボットを世に送り出す

黒田 洋司 黒田 洋司 明治大学 理工学部 教授

マーケットを創造する突破口を開くのはスタートアップ

 軍事用から始まった技術が一般の商用に応用されていくのは、様々な分野で見られることです。ロボットも例外ではありません。すでに、アメリカの巨大通販企業の配送センターでは、1センターあたり1000台から1500台の配送作業ロボットが稼働しているといいます。また、商品のデリバリー・ロボットの開発も進んでいて、実用テストも始まっています。実は、こうしたロボット開発を支えているのは、スタートアップといわれる、イノベーションを目指す、いわゆるベンチャー企業の存在です。社会にとって、ロボットはまったく未知数の存在であり、どんなマーケットを創造するのかもわかりません。そのため、既存の大企業はまず手を出しません。そこで、出てくるのがスタートアップなのです。これは、世界的な潮流です。例えば、アメリカのシリコンバレーでは、多くの優秀な人材が、自らの独創性と技術力を頼りにどんどん起業します。その数は、人口比あたりの件数で東京を1とした場合、ヨーロッパ全体の平均が10、シリコンバレーは200です。単純に言って、日本の200倍もの数のスタートアップが立っているのです。ところが、スタートアップの成功率は約1割です。成功すれば、世界的な大企業に成長することもあるし、既存の大企業に超高額で売却することもできるものの、9割は失敗し、潰れています。こうした仕組みのチャレンジをするのは、安定志向の強い日本人には少なく、また、こうしたチャレンジに対する理解や、サポートをする仕組みも日本の社会にはほとんど整っていません。それが、日本からイノベーションが起こらず、ロボットのマーケットも生み出せない一因になっています。

 日本にマーケットが生まれないことは、ロボット開発を遅らせている要因にもなっています。実は、世界では、大学でのロボット研究はそろそろ終焉を迎えています。例えば、移動ロボットの研究では世界最高といわれるアメリカのカーネギーメロン大学は、すでに20年ほど前に、NASAと協働して火星の表面を無人走行する実験を行っています。今日の無人運転車の技術の基礎は、すべてこの研究にあります。というのも、2004年から2007年の間、全米の大学と米軍が協働して無人運転車のコンペを開催したのですが、そこで優秀な成績を上げたスタンフォード大学のチームのメンバーは、もともとカーネギーメロン大学の出身者たちで、このコンペが終わった頃には、チームごと大手企業に引き抜かれ、そこで、現在最先端の無人運転車を開発しています。同じようなことは、飛行機や船、車、産業用ロボットの開発の歴史でも起きています。大学での研究は、産学協同やスタートアップなどにより実用化の突破口が開かれると企業に引き継がれ、マーケットが拡大されていきます。その頃には、大学での研究は幕を閉じるのです。ところが、軍事用開発もなく、スタートアップもほとんどない日本では、そもそもマーケットが生まれる突破口が開かれず、そのため企業が協働するきっかけも生まれないという悪循環に陥っているのです。

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