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2013.07.01

人間と社会を繁栄させるICTの開発と利用 ―求められるポリシーの確立―

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後進的な日本のプライバシー保護とICTエンジニアのプロフェッショナル意識

 昨年オーストラリアの大学のプライバシー法の研究者がビジネス情報倫理研究所で滞在研究をしていた。彼は、各国の個人情報保護政策の比較研究を行っており、それによれば世界のみならずアジアの中でも日本がプライバシー保護への取り組みが一番甘い、とのことであった。彼は日本のプライバシー保護の現状を、ちまちまと体裁を取り繕っているだけの「盆栽プライバシー保護」と評していた。
 実際、日本のプライバシー保護対策は不十分であり、政策的な議論も諸外国に後れを取っているのが現状である。このことの象徴的な例として、日本ではプライバシーコミッショナーが存在しないということを指摘できる。また、EUを中心に議論されている、The Light to be forgotten(忘れてもらう権利)やThe right to data portability(データ可搬権)などについても十分な議論が行われておらず、進展と普及を続けるソーシャルメディアが生み出すインターネット環境にプライバシー保護が全く追いつけない状況が生み出されている。
 また、ICTエンジニアのプロフェッショナリズムが確立されていないことも問題である。私がある講演会で、ICTに関わるエンジニアは、自分たちが設計・構築する情報システムの社会的影響を常に考えなければいけないと指摘したところ、一人のエンジニアが、「私たちは良いサービスを提供することが使命で、出来上がった情報システムの善し悪しは市場が判断する」と反論してきた。しかし、ICTの利用がもたらすリスクを最も的確に見通せるのは、ICTの利用を情報システムという形で実現するエンジニアに他ならない。現在のICT依存社会においては、情報システムの設計・構築に関する判断が広く社会に影響を及ぼす可能性があるため、ICTエンジニアは、自分たちには常に社会のことを第一に考える職業的責務があることを認識すべきだろう。
言うまでもなく日本においても、ICTの開発と利用を人間と社会の繁栄へと結びつけるための的確なポリシーの 立案と実施が求められている。こうしたポリシーは、ICTのグローバル性と、人間と社会のローカル性のゆえに、グローバルに受容可能であるのと同時に、ローカルにおいて現実的で有効でなければならない。これを実現するためには、ICTという技術の本質を見極めると同時に、日本の社会・文化・伝統への徹底した理解が必要とされる。

※掲載内容は2013年7月時点の情報です。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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