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国宝の金印が偽物、ではないことがわかった

石川 日出志 石川 日出志 明治大学 文学部 教授

「確実で詳細な情報」を共有するために

 歴史を考察するとき、私たちに過去の情報のすべてが遺されているわけではありません。だから、ひとつのことに対しても様々な考え方や解釈が生まれます。

 それゆえに議論を戦わすことが必要なのですが、そのとき、確実で詳細な情報が共有されていなければ、建設的な議論はできません。つまり、各自がてんでんばらばらの根拠で主張するだけのすれ違いになります。

 それは、歴史の研究のみならず、実は、政治や、私たちの身の回りでも同じことが言えると思います。

 では、「確実で詳細な情報」とはなんなのか。近年では、科学的根拠とか、エビデンスなどと言われますが、例えば、インターネット上にはフェイクニュースや疑似科学といわれる情報も氾濫しています。

 「確実で詳細な情報」を読み取るには、まず、自分でいくつもの情報を集めて比べることです。そして自分と違う考え方に触れることです。すると、いままで知らなかった新しいことに気づくことができます。そのとき、きっと「へぇ」という思いが生まれます。

 それはとても大切なことで、「へぇ」には、いままで知らなかったことを知る喜びや楽しさがあります。すると、その情報は本当に、本当のことなのか調べたくなる好奇心が湧きます。

 そこで、自分で調べていけば、それがフェイクや疑似科学なのか、エビデンスのあるものなのかもわかってきます。自分で納得できるようになれば、その基になったのが「確実で詳細な情報」なのです。

 その「確実で詳細な情報」は、きっと多くの人と共有できるものだと思います。

 もちろん、そこから先の判断は、また、人によってそれぞれ異なるかもしれません。すると、また新たな「確実で詳細な情報」が調べられ、提供されるかもしれません。そこから新たな会話が生まれるでしょう。それが、私たちの議論をどんどん深めてくれるのです。

 だから、「へぇ」を大切にしたいですね。それが、偏見や意固地に陥らずに、新たなものを発見していく「確実で詳細な情報」を得る、とても重要なことになるからです。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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