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「フランス語は戦利品」という植民地だったアルジェリアの柔軟さ

鵜戸 聡 鵜戸 聡 明治大学 国際日本学部 准教授

フランスと一線を画すアルジェリア

 アルジェリアで、2019年から「ヒラク運動」と言われる全国デモが続いていることは、日本でも報道されています。

 政治腐敗に対する抗議運動と言われていますが、とりわけ若い世代を中心に、民主化の要求や特権階級に対する反発が国民を突き動かしていると思います。

 実際、この運動によって、憲法を改正して長期政権を続けていたブーテフリカ大統領を退陣に追い込んでいます。

 また、アルジェリア戦争を戦った人たちが英雄視され、国の富や特権を独占している状況に対して、若い世代が声を挙げたことは大きな意味があると思います。10年前は、内戦のトラウマを引きずっていたアルジェリアにとって、まさに、遅れてやってきた「アラブの春」なのです。

 問題は、この全国デモが組織化されておらず、この運動の受け皿となる組織がないようなことです。ブーテフリカ体制のあと、アルジェリアがどこに進むのか注目したいと思っています。

 一方で、このヒラク運動と同じ時期に、フランスでは「ジレ・ジョーヌ運動(黄色いベスト運動)」と呼ばれる全国デモが起きていました。燃料税の引き上げに抗議することから始まったデモですが、一部が暴徒化し、商店などを襲う事件が起きました。

 それに対して、ヒラク運動は平和的に行われており、それはアルジェリアの人たちの矜持を示すものとも言われます。

 フランスから得たもの、学んだものは大きく、その影響は多々あるものの、自分たちはフランスとは一線を画してやっていくという姿勢が、そこにあると言えるのです。

 さらに、同じ頃、フランスと接するスペインの自治州、カタルーニャの独立問題が起きました。

 確かに、独自の歴史と文化を持つこの地域は、スペインの他の地域とは異なるアイデンティティも有しています。その象徴は、フランコ独裁時代にも守り続けられたカタルーニャ語です。

 いまでも、義務教育から大学などの高等教育まで、カタルーニャ語で行われており、その頑なさは、言語とアイデンティティの関係としてみれば、ひとつの成功例と言えます。

 一方で、その頑なさは強硬な言語ナショナリズムともなりえ、スペイン政府に対して独立を要求するところにまで達したわけです。それは、カタルーニャ内部においても十分な対話を欠いたアイデンティティ政治となってしまっている面も見受けられるようです。つまり、少数言語の継承とコミュニティのアイデンティティの結びつきにおいて、ひとつの負の側面をも示しているように思います。

 カタルーニャの頑なさは、フランス語を廃し、外国から教師を招いてもアラビア語を国家語としようとしたアルジェリアの姿勢にも似ています。

 しかし、現実的にフランス語を一掃することはできず、ときに積極的に利用してきた、一種の柔軟さもアルジェリアにはあります。

 それはまた、アルジェリア社会のある面でのインクルーシブの高さを表していると言えるのかもしれません。

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