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ヨーロッパに学ぶ日本の「移民問題」

荒又 美陽 荒又 美陽 明治大学 文学部 教授

ヨーロッパに学ぶべきことがある

 そもそも、移民、外国人とは、国があり、国境があるから成り立っている概念です。それを、現代に生きる私たちは当たり前のこととして受け止めていますが、それほど長い歴史があるわけではありません。

 例えば、18世紀末にフランス革命が起きたとき、フランスの領土に暮らす人々にフランス人という意識はほとんどありませんでした。当時は、ブルターニュに住むブルトン人とか、アルザスに住むアルザス人という意識だったのです。

 ちょうど、江戸時代の日本人が、日本人ではなく薩摩人とか会津人という意識だったのと似ています。言語も地域によって異なっていました。

 フランス革命後、そこに、政府の一元管理が始まります。教育をはじめ、メディアなどを利用して言語の統一を進め、国民という意識を徐々に醸成して、国という形で統一していくのが19世紀に起きた政治の流れです。

 こうして構築された近代国民国家というシステムが、ヨーロッパから世界に普及していきます。日本も19世紀後半にその影響を受け、明治政府の下で推し進められるわけです。

 その過程で、国境という概念も強化されていきます。

 ヨーロッパで現在のような意味での国境の取り決めがなされたのは、三十年戦争を終結させたウエストファリア条約と言われます。しかし、それは、王や諸侯同士の取り決めであり、そこに住む人々には国境という意識は希薄でした。

 一般の人々の移動は厳しく制限されており、国のなかにも多くの関所がありましたが、逆に国境地域ではある程度、国境を越えた行き来もあったのです。

 近代国民国家は、国境を唯一絶対の境界としました。それを越える往来は、国家が一元的に管理するようになります。国境は、国家的な利害にかかわるかどうかのみが問われる境界となりました。

 例えば、2020年に、アメリカのトランプ政権は、コロナ禍でオンライン授業を受ける留学生は入国させない施策を打ち出しましたが、卒業生を雇用できなくなることを危惧した産業界の反対によって撤回されました。

 もちろん、教育界も反対していましたが、撤回の理由は、学生個々の学ぶ権利を守ることではなく、産業界の思惑だったのです。

 しかし、先にも述べたように、ヨーロッパは、人をただ労働力や人材と見なすのではなく、人権を認める方向にも進んでいます。選挙権や福祉についても、もちろん反対する人もいますし、一進一退ではありますが、常に議論されています。

 翻って日本を見ると、外国人が日本に居住していても移民とは認めず、選挙権や福祉について政治の場で話し合われることはほとんどありません。

 しかし、少子高齢化が世界で最も進む日本が外国人労働者に頼っている実態は、コロナ禍でより鮮明になったともいえます。

 だとすれば、私たちがヨーロッパの歴史から学ぶべきことは多いのです。

 それは、国に任せておけば良いということではなく、市民レベルでも考えるべきことです。

 近所に外国人が暮らしていて、交流したいけれど、どう接すれば良いのかわからないという人も多いと思います。でも、無理に交流しなくても良いのです。

 他方、職場とか、同じ学校に通う子どもを介してとか、必然的に接する機会には意識的に向き合うべきかと思います。仕事や子どものことで悩むことやうれしいことには、共通することも多いでしょう。

 そういう生活の場から交流が広がり、同じような経験を共有していくことができれば、無意識の偏見なども薄れていくでしょう。

 日本で暮らす外国人に対する私たち市民の意識が変わっていくことで、政治や行政を動かすこともできます。そしてそれは、私たち自身も生きやすい社会を構築するきっかけになっていくはずです。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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