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ヨーロッパに学ぶ日本の「移民問題」

荒又 美陽 荒又 美陽 明治大学 文学部 教授

移民の人権問題と向き合ってきたヨーロッパ

 では、外国人労働者や移民の受け入れの歴史が長いヨーロッパでは、どういった対応をとってきたのでしょうか。

 実は、ヨーロッパ各国も経済が好調な時には外国人労働者を積極的に受け入れ、景気が悪くなると帰国奨励策をとってきました。

 例えば、第二次世界大戦後の高度成長期には、各国ともヨーロッパの外からの労働者受け入れを積極的に行います。ところが、1970年代に不景気を迎えると受け入れを停止してしまうのです。

 それでも、労働者としてすでに定着している人たちが、母国から家族を呼び寄せることは認められました。家族とともに暮らすという、人としての権利は守られたのです。

 また、非正規滞在であっても、仕事を続け、生活基盤を整えている外国人には、正式な滞在許可を与えるという措置も幾度となくとられてきました。

 確かに、外国人労働者や移民を受け入れる背景には産業界の要請があります。その点は、日本と同じです。

 しかし、人権意識を育む歴史を重ねてきたヨーロッパでは、外国人労働者に対しても、ただ労働力や人材とみなすのではなく、人として同じ権利を認めようという歴史も歩んできたといえます。

 ここ20年くらいの間に、ヨーロッパ各国で極右政党が台頭し、彼らの排他的な言動が多くの支持を得るようになっています。それでも、基本的な人権は、それが移民であれ、外国人であれ、守られなくてはならないという思想は、ヨーロッパに根づいていると私は考えています。

 あらためて日本を振り返ると、高度経済成長期には労働力を国内の農村からの移動でまかなってきたため、外国人労働者の受け入れを積極的に考えるようになったのは、ここ30年くらいのことです。

 技能実習制度のような仕組みは、ヨーロッパのように正規で労働者を受け入れることを拒否するために考案されたと考える専門家もいます。そうだとするなら、それは人としての権利をはじめから否定していることになります。

 それでは、日本で働くよりもほかの国に行こうと考える人が増えていくことでしょう。外国人労働者の権利を守ることは、日本で働きたいと考える優秀な人を確保したいと考える産業界にとっても重要な課題であるはずです。

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