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アフリカへの協力から日本経済の将来を考える

明治大学 情報コミュニケーション学部 准教授 島田 剛

日本はすでに体験していた「ソーシャル・イノベーション」と「ソーシャル・キャピタル」

島田 剛 発展途上国のキャッチアップにはイノベーションが必要だと言われます。

 日本では、イノベーションは、発明や技術革新を意味しますが、innovation本来の意味には、模倣や工夫もあります。

 すなわち、「カイゼン」とはinnovation(工夫)そのものであり、「カイゼン」を取り入れること自体もinnovation(模倣)なのです。

 しかし、その結果、企業の利益が向上しても、労働者の利益が向上しなければ、本当のキャッチアップには繋がりません。企業の利益とともに、社会的な利益も向上させることが重要です。それが、ソーシャル・イノベーションなのです。

 1960年代から70年代にかけての日本の高度経済成長は、1億総中流化と言われました。企業の業績が上がるとともに人々の生活も安定し、3Cと言われたカラーテレビやクーラー、自動車がどんどん普及していきました。

 この、日本のソーシャル・イノベーションの成功は、「カイゼン」によって人と人の繋がりが形成されていったことが、大きな要因のひとつであったと言えます。

 人の繋がりを促進する「カイゼン」は、日本以上にアフリカにおいて有効となるかもしれません。

 例えば、アフリカには様々な民族や宗教が複雑に入り組んでおり、また経済格差も拡がっています。同じグループの結束が強い反面、他のグループを排除することがあります。

 インドに外国企業が進出した際、工場のラインに異なるカーストの人がいると、作業が流れないという弊害があったことがありました。

 こうした課題は一朝一夕に改善されるものではなく、長い時間をかけ、少しずつ、みんながフラットな立場、フラットなネットワークを築いていく必要があります。

 そのとき有効な手段のひとつが「カイゼン」の取り組みでした。自分たちの職場を自分たちで良くすることで生産性が上がり、それによって会社の業績が上がると、自分たちの賃金も上がる。

 こうした仕組みを理解し、近代的な会社で働くことで、こうして職場の中の人の関係が、水平的なものになっていったのです。

 同じことが、アフリカの民族・宗教や貧富の格差といった壁を乗り越えていくことにも有効になると思います。

 実は、こうした活動に取り組むことは、アフリカの問題解決であるばかりでなく、日本の問題解決にも繋がると考えています。

 最近、日本の学生の多くは「カイゼン」を知りません。「カイゼン」があまり注目されなくなったからでしょう。

 一方で、働く人にうつ病が増加しています。原因のひとつは、働く仲間同士の繋がりが希薄で、各人がそれぞれに仕事や責任を抱え込み、それが心理的負担となることです。

 背景には、成果主義があります。

 一人ひとりの成果を評価することは、一見、公平に思えますが、実は、仕事とは、多くの人たちが様々に協力しあうことで、初めて達成されることが多いのです。

 ところが、責任感が強い真面目な人ほど仕事をひとりで抱え込み、精神的に病んでしまいがちです。

 民族や宗教で他者を排除するのも、成果主義や自己責任主義で他者を排除するのも、その人が置かれる状況は変わらないのです。

 日本は、高度経済成長期に、なぜ、一億総中流化を成功できたのか、いま、なぜ、格差社会が広がっているのか。

 職場に横の繋がりを形成し、その意見が上司や会社に伝わり必要な改善や支援が実施される、つまり、組織の横と縦の関係をつくる「カイゼン」が、その大きな要因であったのではないかと思います。

 組織や社会において、こうした人の繋がりを形成することが、ソーシャル・キャピタルです。

 実は、東日本大震災があったとき、取引先企業の多かった企業ほど復興が早かったという研究があります。多くの取引先企業が人と人のネットワークとなり、それがセーフティネットとなり、復興を助けたのです。

 「カイゼン」がソーシャル・キャピタルを形成する基盤となり、それは、いまの日本社会において、精神的に病む人や格差の是正に繋がっていくことになるのであれば、私たちは、アフリカを支援しながら、それは、実は、日本の経済成長の過去を再考し、日本を再生させる方法を模索していることになるのかもしれません。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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