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2019.09.11

日本企業のアジア進出は、日本人のあり方を見直すきっかけになる

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地域全体の発展に繋がる互恵的生産モデル「タイプラスワン」

 アジアでの経営において、必ずしも日本が「正解」をもっている状況ではありません。むしろ、現地のニーズやライフスタイルに合わせて適切な問いを立てることが大切なのです。

 例えば、従来の国際経営は、国と国の間の輸出や輸入を前提としたインターナショナル、国の垣根を越えたグローバル、現地適応を重視したマルチ・ドメスティックなどグローバル統合と現地適合の関係を捉えてきました。しかし、メコン地域の経営実態を理解するには、リージョンという軸を加えて、現地の国々を「面」で捉えることが大切です。

 アセアン経済共同体(AEC)によって地域の重要性が増しており、製造業を中心とした地域事業戦略の具体的な方法論の一つが、「タイプラスワン」です。

 この考え方が、特に有効に働くのが、メコン川流域のタイとCLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)から構成されるメコン地域です。

 もともと、陸続きで交流の盛んな地域でしたが、近年、メコン川に大規模な橋を架けるなどにより、経済回廊と呼ばれる、各地を繋ぐ3つの大動脈が整備されました。これにより、よりスムーズにモノの行き来ができるようになったのです。

 すると、工場を一ヵ所に集約して、そこで集中的に生産し、人件費が上がれば他の国へ製造拠点を移管するのではなく、例えば、労働集約的な人手のかかる工程は、比較的人件費の安いラオスやカンボジアなどで行い、そこで製造した部品を、最新設備が整うタイの工場に送り、そこで製品として完成させるという「タイプラスワン」という域内分業がスムーズに行えるわけです。

 こうした実践を企業主導で行ってきた結果、タイだけが潤うとか、ラオスだけが潤うというのではなく、地域全体が互恵的に発展するモデルの追求が可能となったのです。

 以前、中国の政治的なリスクを分散させるために、生産拠点を近隣国に移動させる「チャイナプラスワン」が注目されましたが、この場合は、工場を移管すると中国での製造はゼロになり、近隣国に製造が移ってしまいます。つまり、ゼロサムです。

 しかし、「タイプラスワン」は、地域がウィン・ウィンの関係になるプラスサムです。この互恵的なモデルは、世界的にも珍しいモデルと言うことができます。

 そこで、AECの利点を活用して、企業が主導する形でリージョセントリック(地域志向)な事業展開が行われたのです。現在では、多くの日系企業が、域内分業の「タイプラスワン」を活用した地域事業戦略を展開しています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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