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2019.09.11

日本企業のアジア進出は、日本人のあり方を見直すきっかけになる

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利己的と利他的という二分法的な理解を超えた社会を考える

藤岡 資正 「タイプラスワン」戦略は、国と国、企業と企業、そして人と人が互恵的な関係を築くことで地域レベルでの競争力が強化され、持続可能性が高まることになります。

 つまり、単に、人手のかかる工程は人件費の安い国で行い、より資本集約的な工程は最新設備のある工場の国で行うという、一国や一企業の利己的な経済追求のみを志向したものではない点が重要です。

 結局は、メコン地域の共存共栄を目指すというビジョンは、地域住民の幸福という絶対価値の追求なくして実現することはできないのです。地域住民の幸福から遊離した利己的な経済的価値のみを追求するならば、こうしたビジョンは空虚な抽象概念に過ぎないのです。

 先に、アジア新興国は市場が拡大し、現地で製造し、現地で売り抜くモデルへシフトしていると述べましたが、そのためには、市場を開拓し、現地の人々を巻き込みながら共に価値を創造することのできる、経営人材が不可欠です。

 実際、私自身も、タイで、住宅の企画、設計、販売をする事業プロジェクトに関わったことがありますが、性能の良い日本の家を売り出せば、それで売れるというものではありません。現地の人の生活やニーズを深く理解し、日本の強みを活かしながらも、現地適応をしていかなくては、高品質だけでは売れないのです。

 現地で必要とされない品質は、高品質ではなく過剰品質になってしまいます。そのためには、製品設計通りに機能を発揮する適合品質の追求のみではなく、現地の経営人材と協働し、顧客ニーズを設計品質へと組み込みながら、新しい価値を創造していかなくてはなりません。

 しかし、残念ながら、現地の経営人材にとって、就職先としての日系企業は人気がありません。

 欧米の企業に比べて人気がない理由は、収入面だけでなく、日本企業には、彼らがキャリアを開発していく仕組みができていなかったり、日本のサラリーマンから連想される、働き方の負のイメージがあったりするためです。

 私たちは「日本的」という言葉が大好きですし、アジアでの経営においても日本的経営のすばらしさを強調することが多くあります。しかし、日本的美徳と私たちが呼ぶものが、よく考えてみると実は、日本に限らない普遍的な価値観であることが多くあります。日本特殊論ではなく、自らを相対化し、違いを認識したうえで、簡単には理解し合えないなかで、どのようにものごとを進めていくのかを考えなくてはなりません。

 つまり、海外事業の課題の本質は外にあるのではなく、私たち自身にあるのです。内なる国際化は、以前から国際経営の課題と言われてきましたが、アジアと向かい合ういま、あらためて、自身を見つめ直し、自らの存在意義を相手の文脈で考えてみることが求められているのです。

 私たちが取り組んだ例でいえば、自分たちがもつ技術をただアピールするのではなく、まず、現地に行き、どこにどういう問題があるのかをしっかり見出し、そのための問題解決を考え、自社だけで手が回らなければ、数社でクラスターを組み、現地の政府や企業と協働してソリューションを提供していくというアプローチを推進してきました。

 いま、人間社会の一部であった経済が巨大化し、強欲化し、社会が経済に埋め込まれた結果、経済の主役である人間という存在への関心が失われつつあるような気がします。経済化した社会から人間性を回復させるために私たちは何ができるのでしょうか。新紙幣になる渋沢栄一氏の語録をまとめたものに『論語と算盤』があります。理想(論語)のみでは社会は動きませんが、その理想に現実性を与えるのが経営(算盤)なのです。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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