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移民をスケープゴートにするトランプ政権に改革は期待できるか?

林 義勝 林 義勝 明治大学 名誉教授(元文学部教授)

移民の入国規制は、移民をスケープゴートにしているから!?

 また、トランプ支持者たちの中核を成すのは、中流階級より下の白人の労働者たちといわれています。彼らの多くは、中西部のラストベルト(錆びついた工業地帯)といわれる地域の労働者です。確かに、この地域は一昔前には鉄鋼業や自動車産業で栄えましたが、今は見る影もなく衰退しています。その大きな要因は、古い技術やシステムに依存し、技術革新に取組んでこなかったことです。その結果、生産ラインの海外シフトが進んだのです。ところが、トランプ大統領は、失業したり低賃金で生活が苦しくなった労働者たちに、移民が仕事を奪っているからだ、というメッセージを発しました。だから、自分が不法移民を取り締まってやると言ったのです。労働者たちはこのメッセージを信じて移民を敵視し、トランプ大統領に期待して彼を支持しました。しかし、現実には、ヒスパニックなどの移民の多くは、白人があまりやりたがらない農業や建設現場の労働者として働いています。アメリカの農業や建設業は、移民の労働者がいなければ成り立たないといわれています。ラストベルトの白人労働者の仕事が減ったのは産業の構造的な問題であり、移民たちのせいではないのです。

 しかし、自分たちの生活が苦しくなったときに、移民をスケープゴートにする政治手法が効果を発揮するのは今に始まったことではありません。例えば、1840年代末のゴールドラッシュの時期に、中国人がたくさんアメリカにやって来ます。彼らは、南北戦争(1861年~1865年)後もアメリカに残り、その後始まった大陸横断鉄道の建設に駆り出されます。低賃金で長時間労働に耐えるからで、多くの中国人がアメリカに来ました。彼らはクーリー(苦力)と呼ばれ、西海岸からの鉄道建設に従事しその9割は中国人だったといわれます。ところが、鉄道建設が終わると、中国人たちは放り出されてしまいます。そこで、彼らはアメリカ各地でチャイナタウンを形成し、助け合って生活していきました。しかし、社会の景気が悪くなってくると、そんな中国人たちが標的にされます。1882年に中国人排斥法が施行され、中国人労働者の移住が禁じられたのです。中国からの移民が来なくなると、増えたのが日本人移民です。しかし、1924年に施行された国別割り当て移民法で、移民の受け入れ上限数が決められました。その基準となったのが、1890年の国勢調査です。その時点の住民の出身国を基準として、そこからの移民をその2%以下に規制したのです。つまり、西欧や北欧に比べ、19世紀末から急増した東欧や南欧からの移民は制限されることになったのです。さらに、アジアからの移民は帰化不能外国人として、全面的に禁止されました。特に日本が標的にされたわけではありませんが、日本ではこの移民法を「排日移民法」と呼んでいます。このように、アメリカは労働力不足になれば移民を利用し、社会が不景気になったり、何か問題が起きると移民をスケープゴートにして、移民を規制・排斥するということを繰り返してきたのです。

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