明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

移民の急激な受入れ、反民主主義体制のままではEUは瓦解の危機に直面する

安部 悦生 安部 悦生 明治大学 名誉教授(元経営学部教授)

イギリスは移民受入れ策に失敗していた

 底流にこうした移民問題があったイギリスに、旧共産圏を含む10ヵ国がEUに加盟した2004年以降、東欧移民が急激に増えました。いまイギリスには、毎年30万人の移民が入って来ています。彼らは白人でキリスト教徒なので文化的摩擦は少ないでしょうが、今度はイギリス人の職が奪われるという問題が起きています。しかし、東欧からの移民が就く仕事は、もともとイギリス人が就きたがっていなかった仕事が中心なので、職の奪い合いは起きないという説があります。確かに、イギリスの失業率は5%と低く、経済的には完全雇用の状態だといわれています。ところが、実際には、いままで就いていた職を奪われた人もいるし、奪われなくても、低賃金などでも働く移民たちの影響で、労働条件が悪化している人もいます。私は2年に1度は渡英し、ケンブリッジ大学のカレッジに住むことが多いのですが、そこの部屋を掃除しに来ていたイギリス人の女性が、2005年からポーランド人に変わりました。ホテルのメイドさんがハンガリー人になっていたこともあります。私の実感でも、東欧系の移民たちがイギリス人に代わって職に就きはじめていることがわかります。

 ところが、2004年当時、移民の受け入れには7年間の猶予期間があったのです。にもかかわらず、時のブレア首相は労働力の増加を重視して、最初から受け入れを了解してしまいました。このとき、移民の受け入れを段階的に行っていれば、今日のようなブレグジット(BREXIT:イギリスのEU離脱問題)は起きなかったかもしれません。移民たちとの文化的摩擦や職を奪われることに起因する、一般の生活者の嫌悪や不満の感覚を理解しなかったことが、ブレグジットを招いた最大の要因であったことは間違いありません。

国際の関連記事

日本の「移民政策」が置き去りにしていること

2023.9.20

日本の「移民政策」が置き去りにしていること

  • 明治大学 情報コミュニケーション学部 教授
  • 根橋 玲子
世界秩序への挑戦を抑止する「冷戦」の戦略とは?

2023.9.13

世界秩序への挑戦を抑止する「冷戦」の戦略とは?

  • 明治大学 情報コミュニケーション学部 教授
  • 鈴木 健人
「食料問題」解決のヒントは和食にあり!?

2023.8.30

「食料問題」解決のヒントは和食にあり!?

  • 明治大学 商学部 教授
  • 浅賀宏昭
フランスの議会史から見えてくるもの

2023.7.12

フランスの議会史から見えてくるもの

  • 明治大学 文学部 専任講師
  • 谷口 良生

新着記事

2024.03.21

ポストコロナ時代における地方金融機関の「新ビジネス」とは

2024.03.20

就職氷河期で変わった「当たり前の未来」

2024.03.14

「道の駅」には、地域活性化の拠点となるポテンシャルがある

2024.03.13

興味関心を深めて体系化させれば「道の駅」も学問になる

2024.03.07

行政法学で見る「AIの現在地」~規制と利活用の両面から

人気記事ランキング

1

2020.04.01

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

2

2023.12.20

漆の研究でコーヒーを科学する。異色の共同研究から考える、これか…

3

2023.09.12

【徹底討論】大人をしあわせにする、“学び続ける力”と“学び続けられ…

4

2023.12.25

【QuizKnock須貝さんと学ぶ】「愛ある金融」で社会が変わる、もっと…

5

2023.09.27

百聞は“一食”にしかず!藤森慎吾さんが衝撃体験した味覚メディアの…

連載記事