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2013.07.01

多民族国家「日本」への視座

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多民族社会からの智恵と暗黙知

 「暗黙知」を成立させ、機能させたのは3つ条件であった。1つは、多民族に制度設計過程における「参加」を保証したことであり、もう1つが「棲み分け」を認めたこと、そして最後は「持続的な経済成長」であったと考えている。
 多民族国家で起こる問題は、教育制度などさまざまな制度設計に民族構成をどのように反映するか、という点に関わる。例をあげれば、選挙区割り、住宅政策、他にも公務員の採用枠や公共事業の配分など、さまざまな場面での民族構成への配慮が必要になってくることだ。マレーシアはこの配分をめぐる基本ルール作り-連邦憲法制定-において、当時、この国を構成していた民族代表の参加を保証し、その過程を経てルール作りに成功した。憲法がいわば、民族間の「社会契約」になったことを意味する。
 もちろん、このルールはあくまでも基本ルールであり、いつも皆が納得して遵守されてきたわけではなく、しばしば制度そのものも機能不全に陥った。その際に、安定をもたらしたのが、「棲み分け」の論理であった。これまでマレーシア政府は、民族ごとに就業産業や職種が固定化する社会を再編成することをめざしていた。確かに就業構造は大きく変貌し、マレー人は農村部住民から都市住民になり、その職業も農業から製造業、サービス業へと変貌した。しかし、良く眺めてみると、一定の新しい棲み分けがなされている。3つめの条件である持続的な経済成長を支えた担い手を見ると、その棲み分けが見える。製造業を支えた外資系企業、そしてそれを下支えする支える中国系地場企業、そしてその外延に広がるマレー人のサービス業や国営企業群である。
 それでは、日本ではどうであろうか。今後さらに進展する多民族社会化の中で、「参加」と「棲み分け」のルールは機能するであろうか。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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