
2022.07.07
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世界の武器取引は増加の一途を辿り、現在、冷戦終結後で最大の規模に達しています。日本も2014年に武器輸出三原則を改訂して、武器輸出国に転じつつあります。現代の軍縮・軍備管理問題はきわめて複雑な様相を呈しており、問題の重大性にもかかわらず、その本質を見定めることは容易ではありません。闇の中に閉ざされているかのような兵器や軍事の問題に、私たちはもっと注目する必要があります。
2017年3月に、日本学術会議は「軍事的安全保障研究に関する声明」を発表しました。これは1950年と1967年の声明に続いて、日本学術会議が実に50年ぶりに発した三度目の「大学での軍事研究を否定する声明」です。この背景には、半世紀にわたり維持されてきた、大学が軍事と一線を画す日本の伝統が揺らぎ始めたことへの危機感があります。自由な研究費に回せる大学への交付金は毎年削減されてきていますが、その一方で米軍による日本の大学や研究機関への研究費助成は増加してきています。そして2015年には防衛省が、大学から防衛装備に関する先端技術の提案を募る「安全保障技術研究推進制度」を導入しました。この制度の予算額は、2015年度は3億円でしたが、2017年度には110億円へと18倍も増額されています。
それだけではありません。「安全保障技術研究推進制度」の創設と同時に、防衛省の外局として防衛装備庁が設置されましたが、それは同制度を所管するだけではなく、東アジア諸国などへの武器輸出を推進するという役割も担うこととなったのです。
こうした一連の決定の前提には、2014年4月に武器輸出三原則に代えて、武器の輸出入を基本的に容認する「防衛装備移転三原則」が安倍政権によって閣議決定されたことがあります。ここで特に注目すべきは、大学での軍事研究と武器輸出の国策化に対して、一貫して財界からの強い要請があったという事実です。2015年9月、経団連は「防衛産業政策の実施に向けた提言」を発表しました。この提言で経団連は大学に対して「安全保障に貢献する研究開発に積極的に取り組むことを求め」、政府に対しては「防衛装備品の海外移転は国家戦略として推進すべきである」と主張して、軍事費の拡大と東アジア諸国などへの武器輸出の推進を強く要求しているのです。
以上のように、2010年代に入って日本は急速に武器輸出国に転じ、大学も軍事研究に動員されようとしていますが、それでは、戦後半世紀に及ぶ日本の武器輸出三原則とは、どのような変遷を辿ってきたのでしょうか。実は、武器輸出規制の緩和を求める声は、かなり以前から確認できます。