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すべての子どもに、たくさんのキャンプを体験してほしい

吉松 梓 吉松 梓 明治大学 経営学部 准教授

貧困家庭の子にも参加してもらえるように

 一方で、キャンプを取りまく課題として、参加機会の格差があります。これは、キャンプに限ったことではなく、家庭の貧困のために、子どもの教育の機会やスポーツの機会に格差が生まれている問題です。

 キャンプに関しては、先に述べたように、様々な効果が実証されてきたこともあり、最近になって、公的機関や民間組織なども様々な支援制度を整えるようになっています。

 例えば、青少年教育振興機構の「子どもゆめ基金」は地域の草の根的な活動を支援する助成金制度ですが、数年前から、貧困問題に対応する組織キャンプでは、参加する子どもの参加費が助成対象となりました。

 また、民間の自然学校の団体組織である日本アウトドアネットワーク(JON)は、アウトドアメーカーなどの企業から寄付を受け、各自然学校が主催する、子どもを対象とした組織キャンプにひとり親家庭の子どもが参加するときに、参加費を助成する支援事業を始めています。

 私自身、「子どもゆめ基金」を活用し、ひとり親家庭の子どもに絞ったキャンプを実施しています。

 2020年は、コロナ禍で学校の休校などもあり、特に、貧困家庭の子どもにとっては厳しい時期でしたが、キャンプを実施することができました。

 そのときに参加した子に、このキャンプがなければ、夏休みになにも楽しいことがなかった、という感想文がありました。

 実際、習いごとなどの機会がない貧困家庭の子どもは、学校と家庭しか知らない子が多いのです。その中で、学校や学校行事が中止になると、本当に狭い生活圏に閉じ込められることになります。

 そのとき、キャンプで、他校の子とふれあったり、スタッフの大学生と関わり、一緒に遊んだり、自分のことをよく見てもらえたことは、とても貴重な体験になったのだと思います。

 近年は、組織キャンプに限らず、家族や仲間と行くレクリエーション型のキャンプも盛んで、キャンプブームと言われています。

 大人にとっても、大自然の中でキャンプをすることで、日頃のストレスが軽減されたり、気持ちがポジティブになると言われています。一方で、ちょっと不便な環境の中で過ごすことを、逆に、ストレスに感じる人もいると思います。

 その意味では、子どもの頃からキャンプを経験し、その良さや楽しみ方を知っていることで、大人になってもキャンプを楽しみやすくなるのではないかと思います。

 近年では、親子を対象とした組織キャンプもあり、そこで、野外炊飯のやり方や、自然とのふれあい方を親子で学ぶことができます。

 また、デジタル機器を持ち込まないデジタル・デトックスのキャンプ場がある一方で、インターネット環境を整備し、快適なワーケーションが行えるキャンプ場もあります。

 リゾート感覚のグランピングを楽しむ人もいれば、人里を離れてより原始的な環境でキャンプを楽しむ人もいますし、ソロ・キャンプを楽しむ人もいます。

 キャンプはとても多様化しているので、自分なりのキャンプを見つけ、楽しむことができると思います。それは、日々の暮らしを豊かにしたり、自分をリフレッシュしていくことに繋がっていくと思います。

 子どもの頃からそうした経験を重ね、キャンプの活用を身につけていくことが理想的です。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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