
2023.01.27
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1986年に男女雇用機会均等法、2015年に一億総活躍が提唱され、2016年には女性活躍推進法が施行されました。これらは働く女性のための施策と思われがちですが、むしろ、企業の生産性を高め、公平な社会を実現するための施策と捉えることが重要だと言います。
2016年に女性活躍推進法が施行され、最近では岸田内閣が「女性版骨太の方針2022」を発表するなど、働く女性のための施策が次々に打ち出されています。しかし、それらを女性だけのための施策と捉えていると、重要なことを見落とすことになります。
日本は労働力人口の減少局面に入り、今後も減少が続くことが予想されていますが、こうした状況下で、企業の生産性や私たちの生活水準、そして社会保障制度などのセーフティネットを維持するためには、現状では活用できていない労働力、つまり女性を有効に活用することが必要不可欠です。
残念ながら、日本は国際的にも賃金の男女差が大きい国として有名です。もちろん、女性が有効に活用されていないから、男女に賃金格差があるのかもしれません。ですが、賃金格差が、女性の有効活用を阻害するという逆の関係があることにも注意が必要です。
社会に男女間賃金格差があり、男性より低い賃金しかもらえないのであれば、女性はやる気を失ってしまい、十分に能力を発揮しなくなるでしょう。そして、最悪の場合、働くのをやめてしまうかもしれません。つまり、賃金に男女差のある社会では、女性を有効に活用できない可能性があるのです。
もちろん、賃金格差は必ずしも悪いことではありません。「人的資本」は経済学では重要なキーワードで、仕事に関するスキルや知識のことを指しますが、人的資本が豊富な人は生産性が高く、企業の生産活動への貢献も高いので、人的資本が少なく生産性が低い人より高い賃金であったとしても、多くの人が納得できるはずです。つまり、人的資本量が違うせいで発生する賃金格差には、合理的な側面があるといえます。実は、今でもまだ、男女の間には人的資本量に違いがあるので、そのせいで賃金に男女差があることは否定できません。
でも、人的資本量が同じで、生産性も等しい男女の間に賃金格差があったら、どうでしょうか。これは、合理的な格差とはいえません。
このような格差が本当にあるかは、「要因分解」という手法を使ってデータ分析を行うことで、確認できます。
要因分解は、観察される男女間賃金格差を「人的資本の男女差に起因する賃金格差」と「同じ人的資本なのに発生する賃金格差」に分解する手法です。つまり、「合理的といえる格差」と「合理的とはいえない格差」に分解し、賃金格差のうち、合理的とはいえない格差がどの程度あるのかを確認することができる手法です。
2015年のデータを使って要因分解を行ったところ、日本では、男女の中位値における賃金格差のうち54%が、すなわち半分以上が「合理的とはいえない格差」であることが明らかにされました。なぜ、このような格差が生まれてしまうのでしょうか。