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2022.08.24

男女間賃金格差のある企業は成長できない!?

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必ずしも合理的ではない統計的情報による意思決定

 経済学者は、合理的とはいえない格差が男女の間に発生する理由を、ずっと昔から考えてきました。この理由を説明する経済理論モデルは複数ありますが、ここでは、統計的差別の理論に基づいて考えてみましょう。

 統計的差別の理論とはどのような理論なのか、例を使って説明しましょう。

 ある企業が、従業員の管理職昇進を考えているとします。候補者は、男性のAさんと女性のBさんの二人。二人の年齢や学歴、勤続年数等の人的資本は同じで、同じように実績を上げてきたとしましょう。さて、この企業は、最終的にどちらを昇進させるでしょうか。

 管理職は会社を支える重要な役割ですから、理由もなく決めるわけにはいきません。よって、なんらかの判断基準が必要になりますが、AさんとBさんの違いは性別だけです。

 そこで性別に注目して考えてみると、その企業では、多くの男性従業員は定年まで働き続けます。その一方で、女性従業員は中途退職する人が少なくありません。そうすると、企業は、辞める可能性の高い女性より、勤め続ける可能性の高い男性を管理職にするほうがよいだろうと考えるでしょう。その結果、女性ではなく男性、すなわちBさんではなくAさんを昇進させることが、企業にとって合理的な選択となります。

 このように、同じ人的資本にもかかわらず、男女それぞれの平均に関する情報、すなわち統計的情報に基づいて、女性が男性とは異なる取扱いを受けることを、統計的差別といいます。

 そして、昇進したAさんは高い賃金をもらえるようになりますが、昇進できなかったBさんは低い賃金のままになり、男女間賃金格差が生まれます。

 企業が、従業員の人となりや将来の行動パターンを完全にわかっているということはありません。つまり、その人材に関する情報の不完全性と不確実性に企業は直面しています。このような場合に、企業が今ある情報を参考に、これからとるべき行動を決めることは決しておかしなことではありません。

 しかし、平均的には女性従業員の離職率が高いかもしれませんが、Bさん自身は定年まで働き続けるかもしれません。つまり、女性従業員の平均像が、女性従業員一人ひとりの正しい姿を表している可能性は必ずしも高くはないのです。そうすると、企業の判断は、統計的情報に基づいているかもしれませんが、誤った情報に基づいていることになります。

 また、誤った情報を疑わずに信じてしまう背景には、そういう「思い込み」があることが少なくありません。

 Bさんにしてみれば、自分と関係のない情報によって判断されたことになるのです。これは納得しづらいですし、そんなことがあれば、働くモチベーションが低下してしまいます。

 また、企業にとって、人的資本も貢献度も同じである人材の一部を、思い込みで有効に活用しないとすれば、大きな損失になります。

 人材の有効活用が必須の現代において、このような損失があったのでは、企業の成長どころか持続もままならなくなるでしょう。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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