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哲学は現実離れしたもの?

志野 好伸 志野 好伸 明治大学 文学部 教授

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哲学は現実世界では役立たないもの、というイメージをもっている人は多いと思います。一方、哲学カフェのような試みが世界各地でひろがるなど、私たちの生にとって必要なものだという思いを抱く人も増えてきています。また、唯物論こそが正しい考え方としていた中国で、儒教が再評価されるなど、哲学・思想は現実の政治動静とも無関係ではありません。世の中のことをよりよく理解するためにも、また、人の在り方を根本的に見つめ直すためにも、哲学は重要なのかもしれません。

学問としての哲学

志野 好伸 「哲学」という言葉は、明治になってから日本に入って来たフィロソフィ(philosophy)を訳したものです。日本に入って来たとき、すでに、フィロソフィは特定のディシプリン(方法論)をもった学問を指す言葉として用いられていました。

 その背景には、ギリシア由来の思考の仕方が、中世のヨーロッパの大学において、学ぶべき対象として、すなわち学問として捉えられ、近代にまで引き継がれてきた歴史的経緯があります。日本で最も早く設立された大学である東京大学でも、当初から学問分野として「哲学」を立てています。

 すなわち、ギリシア由来の学問の系譜を引くもののみが哲学である、という歴史的負荷を「哲学」は負っているわけです。

 すると、例えば、プラトンやアリストテレスをはじめ、様々な文献を読み、学問的な手続きを踏まえて行う知的営為が「哲学」ということになります。今日でも、これは哲学のひとつの側面です。哲学というと難解で、現実社会では役に立たない学問と思われる傾向がありますが、それはこうした学問的蓄積についていくのが一般に困難だからです。

 一方で、では、日本にフィロソフィが入ってくる以前に、例えば、人が善く生きるための思想が日本にはなかったのかと言えば、決してそんなことはありません。それは、日本に限らず、中国でも、インドでも、ラテンアメリカでも同じです。ヨーロッパとは違う仕方かもしれませんが、それぞれの地域でつむがれてきた思想はあるわけです。

 ギリシアのフィロソフィも、そもそも、人の生き方に関わる本質的な問いですから、その点において、他地域の思想と変わるところはありません。ギリシアのフィロソフィだけが他地域の思想に対して特権的だということではないのです。また、ギリシアの思想がそのまま一直線に、近現代のヨーロッパの哲学につながっているわけでもありません。哲学史をひもとけばわかるように、近代ヨーロッパの哲学が形成されるにあたっては、中世のイスラーム圏との交流、啓蒙期における中国思想の刺激などが大きな影響を及ぼしていました。

 このような事実を踏まえ、さまざまな地域の思想を見比べることは、知的好奇心を刺激する面白い作業です。

 例えば、古来、日本人のものの考え方に多大な影響を与えてきた中国思想を、ギリシア由来の哲学と比較してみることは、中国思想の理解にとっても、ギリシア由来の哲学にとっても有意義なことだと思います。

 大学という組織の中で育まれてきた「哲学」も、さまざまな思想の一つの型としてとらえ、それをより広い文脈でとらえなおすこと、そしてこうした思弁を新たに「哲学」と名づけなおすこともできます。

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