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哲学は現実離れしたもの?

志野 好伸 志野 好伸 明治大学 文学部 教授

哲学をすることは人だけの特権

 ギリシアや中国だけでなく、世界中の各地域で、人の在り方、善く生きることについて考えられてきました。

 それは各地域において閉鎖的に発展するのではなく、他の地域の思想から影響を受けたり、与えたりしながら、その地域の歴史風土と相まって、独自の発展をしているのです。

 自分たちの社会の倫理観を考えること、あるいは別の社会の思想を学んでみることは、その歴史や伝統を考えることにもつながります。つまり、自分たちは何者か、さらに、人とは何者かにつながっていく思考です。

 そうした思考や哲学は、現実社会では役に立ちにくいと思われがちです。確かに、日々、すぐに対処しなければいけない問題があり、与えられた選択肢の中で一つを選ぶことを迫られる社会では、当座にどう対処すべきか、どう選択すべきかというHow toを学ぶ方が実用的です。

 哲学では、例えば、その選択肢が用意されている前提は何かとか、その前提がくずれるのであれば、こういう選択肢も生まれる、というようなことを考えます。これでは、現実に即した機敏な対応が難しいように思われます。

 しかし、このような、現実の物事を一歩引いて考える見方ができると、次の選択のとき、次の問題に対処するときの、引き出しを増やすことにつながっていくかもしれません。

 また、そのようなメリットを期待しながらではなく、日々の生活とは少し離れた世界観の中で物事を考えてみるのは、やはり、純粋に楽しいことではないでしょうか。

 人は、動物のように自然の摂理の中で生きているだけでなく、文化活動や創作活動を行うことによって、人らしく生きていると言えます。その意味では、善く生きるとはどういうことか、を考えるのは、おそらく、人だけの特権です。

 そんな思いで、皆さんも、哲学書を読んでみてはいかがでしょう。最初から原典を読むのは難しければ、概説書からはじめても良いと思います。

 何かためになることを引き出そうとせずに、論語なら論語の世界にまずは埋没してみると、意外な発見があるのではないでしょうか。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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