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アベノミクスと地方創生の中核企業 ―企業遺伝子経営のススメ―

吉村 孝司 吉村 孝司 明治大学 専門職大学院 会計専門職研究科長 教授

理念を超えた「商品」や「土地」

吉村孝司教授 ――老舗企業となると、理念的なものよりも具体的なモノが大切ということですか?

そのあたりをもう少し調べたくて、愛知県岡崎の八丁味噌会社を訪問させていただきました。「八丁味噌」を名乗れる2社のうちの1社のご当主にお話を伺いましたが、ここの企業遺伝子は突き詰めれば、商品である「八丁味噌」ということになります。商品に対する注文は多く醸造蔵の見学ツアー客も大勢立ち寄って大変繁盛しておられます。しかし、当主ご本人は、必ずしも事業拡大は求めてなく、安定した事業を望んでおられます。また、創業から十数代を数える代々の家業ですが、今後の事業継承、経営の跡継ぎについて身内継承を必ずしも前提としないと言います。さらには、屋号や商標が時代に応じて変わっても構わないとさえおっしゃいます。そして、その上で「ただ一点譲れないのは、50年後100年後にも、同じこの場所で同じ味の味噌を造り続けていること」というのがご当主の言葉でした。必ずしも血筋でも理念でもない、商標ですらない。”モノ”そのものこそが、継承されるべき企業遺伝子であり、その情報はこの地で造るモノの中に組み込まれているというわけです。まさに、本業な何か。何を商売の基本にしているかを、大切に継承しているのです。
つまり、経営者にせよ従業員にせよ、特定一個人の能力や努力だけによるものではなく、誰かに代わっても、ちゃんとできる。一つの大きな点ではなく小さな点を繋げて線になるように連綿と繋がっていく。経営ノウハウとか経営手腕とかを超えたもっと深い部分に脈々と息づいているものがあり、こうしたいわば「遺伝子経営」をできる企業こそ強い企業と言えると考えます。そして、敢えて付言させてもらえば、こうした企業は基盤となる土地(地域)を大切にし、どちらかといえば多くは大都市より地方に立地しています。ここに、今日の課題である経済活性化と地方創生のカギがあるのではないでしょうか。

 ――地方創生を考える上で、示唆に富んだお話しをいただきました。本日は、ありがとうございました。

※掲載内容は2015年3月時点の情報です。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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