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2025.08.07

仕事のやりがいを高めるリーダーシップとは——インクルージョンと心理的安全性の視点から

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これからのD&Iで必要となる「インクルーシブ・リーダーシップ」

 私はこれまで、多文化共生社会におけるグローバル人材についての研究を行ってきましたが、現在では、グローバルに加えて、多様な背景を持つ人々が安心して自分の力を発揮できるためのリーダーシップ、つまり「インクルーシブリーダーシップ」の実践と研究に興味を持っています。

 インクルーシブリーダーシップとは、さまざまな特徴や違いを持つ人々が、自分が受け入れられ尊重されていると感じ、安心して力を発揮できることを目指すリーダーシップのことです。組織においてリーダーの存在と影響は非常に大きく、異なる背景や経験を持つ人々が一緒に仕事をする場で、リーダーが「違い」を尊重するか、1つのやり方を強制するかで、仕事のやりがいや意欲に大きな影響を与えます。

 それでは、インクルーシブリーダーシップを高めるにはどうすれば良いのでしょうか?1つ目のポイントとしては、「自分の不完全さや弱さを認める」という点です。「リーダー」と聞いて、部下を導く強いリーダーをイメージする人には、逆説的に聞こえるかもしれません。しかし、自分の不完全さや弱さを克服しようとひたすら頑張ってきたリーダーは、部下にも同様の完璧さや頑張りを期待してしまうのではないでしょうか? 逆に、自分が不完全であることを認めることができれば、誰かに任せたり、その人の助けや貢献に感謝しやすくなり、結果としてチームや組織内でお互いが自分の持ち味を活かして助け合う、つまりインクルーシブな風土が育ちやすくなります。
 
 2つ目のポイントとしては、前出の点とも関連していますが、「自分の中の内なる多様性を大切にする」という点です。ここで言う「内なる多様性」とは、自分の中の色々な自分を指します。例えば、上司として「自分なりに頑張って、みんなが力を発揮できるようなリーダーシップを発揮したい」と前向きな自分もいれば、「自分はこれだけ頑張っているのに誰も認めてくれない」とやるせなく思っている自分がいたり、「リーダーという立場になると自分らしく振る舞うのが難しい」と窮屈に感じている自分もいるかもしれません。そして、「内なる多様性を大切にする」とは、様々な自分は意味があって存在しており、それぞれ大切な存在だと認めることなのです。もし自分の中に「弱い自分を認めるなんてとんでもない!」と言っている部分があるとしたら、その部分も含めて受け止めるということでもあります。

 ではなぜ、内なる多様性を大切にすることが重要なのでしょうか? それは、自分の自分に対する態度が、外側の他者への態度に反映されるからです。たとえば、「自分は男性だから泣いてはいけない」と思い込んでいると、泣いている他の男性を見たときにイライラしてしまうかもしれません。これを心理学では「投影(プロジェクション)」と言います。他人に対してそのように感じるのは、実は、その他人のなかに「自分の一部」を見ており、それを受け入れがたいことが原因なのです。

 自分の中にいる様々な自分を認めて受け入れることができるようになると、自分の外にいる様々な人に対しても寛容になり、インクルーシブなリーダーシップが自然に取れるようになっていくでしょう。実際、研究でもリーダーの自己受容はチームの心理的安全性や信頼関係の構築に寄与することが示唆されています。したがって、まず自分の「内なる多様性」に気づき、大切にすることが、インクルーシブな風土を育て、一人一人のワークエンゲージメントを高める重要な一歩だと考えます。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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