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企業の成長を促すレッドクイーン型競争には、落とし穴もある

牛丸 元 牛丸 元 明治大学 経営学部 教授

同じ分野のライバルと競争しながら、ともに成長する企業のあり方を「レッドクイーン型競争」と言います。1960~80年代にかけて、日本の高度経済成長を実現したのは、こうした企業間競争があったからです。しかし、そこにあった落とし穴が、現在の停滞を招いているのかもしれません。

アリスの物語からヒントを得た「レッドクイーン型競争」理論

牛丸 元 「レッドクイーン型競争」というのは、激しい競争をした企業群ほど生き残るという、競争ダイナミクス論における企業間競争のひとつのタイプです。

 そもそもは、ルイス・キャロルの作品である「不思議の国のアリス」の続編、「鏡の国のアリス」(「Through the Looking-Glass」)に登場するレッドクイーン(赤の女王)が、アリスに向かって言う「その場にいたいのならば、他よりも倍の速さで走り続けなければならない」というセリフから始まっています。

 生物学者のリー・ヴァン・ヴァレンが、このセリフから種の生き残りの原理のヒントを得て「レッドクイーン型競争」を提唱します。生物学用語となったそれを、今度は、経営学者でスタンフォード大学のバーネット教授らが、企業の生き残りの原理として採り入れたのです。

 ところが、このレッドクイーン型競争は、競争戦略論などで教えられている企業の競争理論とは異なっていました。

 競争戦略の大家であるハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授やオハイオ州立大学などのジェイ・B・バーニー教授らは、他の企業が進出していない市場に進出したり、他社が簡単にはマネのできないような製品を開発することが企業の生き残りにとって重要である、と説いているのです。

 つまり、できるだけ競争を避けるという意味において、競争しない競争戦略論と言えます。これに対し、レッドクイーン型競争は他社との競争を奨励している点において、考え方が逆であると言えるのです。

 しかし、こうした競争による切磋琢磨によって、その分野においていくつかの企業が共に進化する共進化が起こり、経済の活性化に繋がっていくことは、日本の高度経済成長期がまさに体現しています。

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