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企業の成長を促すレッドクイーン型競争には、落とし穴もある

牛丸 元 牛丸 元 明治大学 経営学部 教授

激しい競争をする企業の生存率は高い

 また、レッドクイーン型競争は、組織学習の仕方にも特徴があります。

 例えば、現在の企業にとって、単独で製品やサービスのイノベーションを起こすことは非常に難しくなってきています。市場の移り変わりが激しいハイパーコンペティションの時代を迎えたからです。そこで、合併買収によって企業のリソースを拡大するM&A戦略が盛んになりました。

 しかし、M&A戦略が最も有効だったのは、まだ、市場のどこにチャンスがあるのかを見極めることができた30年ほど前までと言えます。

 もちろん、いまでもM&A戦略はよく使用されますが、コストと時間がかかることが多く、ハイパーコンペティションがさらに進み、市場ニーズや技術開発がめまぐるしく、将来予測が非常に難しくなった現在では、リスクが大きくなっているからです。

 そこで、ライバル企業同士が技術や市場を融通し合うといった、戦略的提携が頻繁になされるようになります。

 こうしたM&Aや戦略的提携によって直接的に経営資源を獲得することで、ライバル企業同士が互いに学習し進化することを、私たちは、接触型共進化と呼んでいます。

 しかし、競争関係にある企業が直接的に接触し、経営資源の交換を行うことは、実は、危険でもあります。なぜならば、企業間関係が「囚人のジレンマ」状態になっているからです。

 囚人のジレンマとはゲーム理論における考え方で、協力し合えば互いに利得を獲得できるが、どちらか一方が裏切ったときの利得が大きいために、結局、互いに裏切りを選択してしまい、両者とも何も得るものがないというものです。

 私は、合弁型提携の生存時間を生存時間分析によって調べたことがありますが、従来型の提携よりも短いことがわかりました。やはり、裏切りの誘惑が大きいのです。

 一方で、レッドクイーン型競争は、言い換えると、相手があまり信用できないので、自らの力でたくましく生き抜くという、企業本来の自律的な行動であるとも言えます。

 レッドクイーン型の競争では、企業は競争相手の行動から間接的に学習し、戦略を立案します。私たちはこのことをサーチと呼んでいます。このサーチが頻繁になされ、トライアル・アンド・エラーを繰り返すことで、企業は激しい環境に適応していきます。

 そこから、困難ではあっても新たなイノベーションが生まれます。それがなければ、生き残ることはできないからです。

 すなわち、激しいライバル同士の戦いが、組織学習を促進させ、組織の環境適応を実現させ、結果として、そうした行動をとった企業同士が生き抜いているのです。私たちは、このことを非接触型の共進化と呼んでいます。

 実際、競争ダイナミクスという研究分野では、レッドクイーン型の企業間競争に関する実証的研究がなされていますが、その多くが、激しい競争をした企業の生存率が高いことを報告しています。

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