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インドから始まるイノベーションは、カオスから始まっている

西 剛広 西 剛広 明治大学 商学部 准教授

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近年、インドでは様々なイノベーションが起きて、社会の活性化や課題の克服に繋がっています。そうしたイノベーションは、日本や欧米などでも注目され、国内に取り入れる動きも活発です。世界が注目するイノベーションが、いま、なぜ、インドから起こっているのでしょう。

イノベーションによって変わり始めているインド

西 剛広 皆さんは、インドに対してどのようなイメージを持っているでしょうか。まだまだGDPも低い、発展途上国というイメージを持っている人が多いと思います。

 確かに、インドのインフラの整備は遅れていますし、道にゴミなどが散乱しているところもあります。地方の農村は貧しく、そのため多くの人が都市に集中するため、都市部は慢性的な交通渋滞を起こしています。

 しかし、インドではAI・ITを中心とした産業が発達しており、南部の都市バンガロールには、欧米やアジアの企業が進出し、現地に拠点を築いています。さらに、バンガロールには多数の欧米や現在のIT・AI企業やスタートアップ企業が存在し、バンガロールは、まさに「アジアのシリコンバレー」として、世界のIT・AI産業の中心地となっています。

 もともと、インドには数学教育の伝統があり、優秀なエンジニアを継続的に輩出しています。以前は、彼らは欧米の大手IT企業にスカウトされ、現地の欧米企業あるいは、欧米でエンジニアとして働くことが多かったのですが、近年は、インド国内に留まり、起業する人が多くなってきています。とりわけ、工科大学を卒業し、大学院でビジネススクールに進み、エンジニアリングとビジネスの両方の知識を持って起業するようなケースが増えているように思います。

 彼らがスタートアップを起こし、そこから様々なイノベーションが生まれ、実は、近年のインド社会は変わり始めているのです。

 例えば、インドでは、オートリキシャと呼ばれる三輪タクシーが手軽で安価で、人々の足になっています。ところが、このドライバーの中には、客が外国からの観光客だとわかると、料金をぼったくるようなことをする人もいます。

 しかし、いまでは、スマホからタクシーを呼べるOla(オラ:OLA cabs)というシステムが浸透しています。このシステムでは、ドライバーの評価を書き込むことができるので悪質なドライバーが減少し、観光客なども以前と比べ安心して乗れるようになってきていると思います。

 日本でも、いくつかのタクシー配車アプリが稼働していますが、インドのスタートアップから始まったOlaのシステムは先進国でも認められ、オーストラリアやイギリスなどでもサービスが開始されています。

 また、インドではキャッシュレス決済が急速に浸透しています。その中核を担っているのがPaytm(ペイティーエム)というシステムです。都市部では、店舗はもとより、屋台などにもPaytmのQRコードが設置されるようになっています。

 このPaytmを提供するのも、スタートアップから始まった企業です。浸透した理由のひとつは、中小の店舗からは決済の手数料を取らないことです。そのため加盟店が増え、ユーザーの利便性が高まり、利用者が一気に増えたのです。

 さらに、購買データなどが巨大化してビッグデータとなり、マーケティングに活かされるだけでなく、ユーザー個々の与信情報にもなります。それによって、従来は銀行口座を持てなかった貧困層の人たちも、様々な金融サービスを利用できるようになったのです。

 このようなPaytmはキャッシュレス決済から銀行業務への進出などファイナンス領域のビジネスを広げています。また、Olaのサービスは音楽や映画の配信、フードデリバリー、ファイナンスサービスなど、多角化が進められていて、ユーザーはさらに増加しています。

 このようなITプラットフォームは、利用者が増えるほどそのサービスの利便性が高まるというネットワーク効果という性質を持っています。OlaやPaytmのITプラットフォーム上の事業拡大は、顧客をPaytmやOlaのエコシステムに囲い込み、ネットワーク効果を高めることに大きく貢献しています。

 こうした、スタートアップから始まった企業が起こすイノベーションに、いまでは先進諸国も注目し、海外からの投資が急増しています。つまり、インドのスタートアップが起こすイノベーションはインド社会を変えるとともに、それによる新たなインドの将来に対する期待が大きく膨らみ、世界中からの投資熱となっているのです。

 実際、日本の企業による投資も大きく、その結果、日本で始まったPayPayのシステムは、Paytmから技術供与を受けているものなのです。

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