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インドから始まるイノベーションは、カオスから始まっている

西 剛広 西 剛広 明治大学 商学部 准教授

失敗に寛容なおおらかさと緩さがイノベーションを生む

 かつて日本の高度経済成長を支えたものづくりの時代に対して、いまは、ITやAI技術によるソフトウェアやシステムが社会を変える原動力になっています。その分野の人材を育ててきたインドが、いま、成長しているのは当然のことかもしれません。

 もちろん、一方で、インドにも様々な課題があります。

 例えば、インドのビジネス界の中枢は、ヒンズー結合ファミリーといわれる、直系の血縁者で幾代にもわたり結束している企業です。

 日本の戦前の財閥のように、親会社をはじめグループ企業も一族の者で株を持ち合って所有し、経営も血縁者を配して、企業グループ全体を一族で支配していくのです。新興のベンチャー企業もファミリー企業化していくことが少なくありません。ファミリーの閉鎖的な所有構造が様々な問題を引き起こしてきました。一般の株式会社の形態をとりながら、一族の者には会社を私有化する意識が強まり、会社の資産を自分の口座に移すトンネリングや、粉飾決済、一族や関係企業間の怪しい取引など、一般株主や従業員、社会に対しても多大な悪影響を及ぼす事件を起こすことが多々あるのです。

 一方で、こうしたファミリー企業が、スタートアップやベンチャー企業を支援したり、社会に貢献するという意識を強く持つこともあります。ファミリー企業はインドのドミナントの企業形態ですし、インドの経済・社会の発展に大きく貢献してきたことも事実です。

 ファミリー企業が経済や社会に対して正あるいは、負の影響を及ぼすのは企業を取り巻くリスクや環境要因によるものだと考えています。まだ、研究途中のところはありますが、ファミリー企業が他企業との厳しい競争の状況にあるときなどは、研究開発に積極的に投資していくという傾向があることを把握することができました。

 すなわち、リスクに対して守るのではなく、新たな動きを起こすことで打開しようという意識が、結果として、スタートアップ支援となり、社会に良い影響を及ぼすイノベーションに繋がっている側面があると思われるのです。

 これは、議論の中で落としどころを決めていく日本のやり方と異なり、一族のトップの決断がすぐに実行される体制だからなのかもしれません。

 インドでは、ファミリー企業のスキャンダル防止のために、監視、監督強化を目的として、2013年に新会社法ができました。新会社法の中で、企業に対して女性取締役の設置義務と直近会計年度3年以内の純利益の2%をCSR活動に支出することが義務づけられたことが注目を集めました。

 コーポレート・ガバナンスとしては、日本を超える最先端のレベルです。これが本当にすべて守られるのか疑問ですが、克服すべき課題に対して、ポンと高い目標を設定するのもインド的なやり方です。

 日本では、履行されることを前提に、議論や根回しを充分にして目標や規制が決められます。だから、一度決めたことを遵守しない者が出ると非常に非難されるわけです。

 もちろん、これも社会を運営していく、ある意味、完璧主義の方法です。これによって、戦後の日本は成長してきたのです。

 一方、インドは、できる、できないは別にして、まず、基準を設定します。おそらく、実行が難しければ、また、新たな基準が設定されるのだろうと思います。こうした現実主義の面も、ジュガールの文化だと思います。

 また、新会社法を遵守している企業は、それをとても誇りにしています。それが、社会貢献に繋がり、社会での評判を高めることができるからです。そうした意識も、インドでは強いのです。

 インドの社会は一筋縄ではいかないカオスです。それがインドの成長を阻害してきた面もありますが、一方で、それが、失敗を恐れない活力となって、イノベーションの原動力にもなっています。

 日本とインドとの間は文化も状況も大きく異なります。しかし、少なくとも、何度でも挑戦することを支援し、失敗に寛容であるおおらかさと緩さは、いま、日本に必要なのではないかと思います。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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