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インドから始まるイノベーションは、カオスから始まっている

西 剛広 西 剛広 明治大学 商学部 准教授

インド社会の特徴のひとつはジュガール

 スタートアップやベンチャー企業の成長を見る指標のひとつに、ユニコーン企業があります。これは、評価額10億ドル以上の非上場企業のことですが、2020年の統計では、アメリカ235社、中国118社に次いでインドが24社で世界で3番目の多さです。それに対して日本は4社のみなのです。

 なぜ、インドではスタートアップが起こり、それが大きく成長していくのか。いくつか理由がありますが、先にも述べたように、インドでは数学教育の伝統があり、優秀な学生はインド工科大学などエンジニアリングを学ぶ傾向にあり、これがインドのIT・AI人材の育成に大きな役割を果たしています。あるいは、大学と企業との産学連携が盛んであることもあげられます。大学で生まれた技術をスタートアップ企業が活用することもありますし、インドの大学やビジネススクールにはインキュベーションセンターも広く展開されています。さらに、スタートアップあるいは、スタートアップへの投資家への優遇税制もあります。

 ただし、私は、インドの文化的背景に目を向けたいと思います。インドにはジュガールといわれる文化があります。これは、目の前の課題などに対して、新たな解決策を構築する前に、まず、いま、できることやあるものを組み合わせて、間に合わせでも良いから対応しようというやり方です。

 例えば、Paytmがインドで普及した背景には、信用のない貧しい人にも銀行口座を保有させることを可能にしたことがあります。インドには貧しく信用もないため、口座を持てない人がたくさんいました。このような課題をPaytmは解決しているのです。

 また、日本のメディアでも報道されていますが、インドにニラマイというヘルスケアのスタートアップ企業があります。インドでは、他国に比べて乳がんの罹患率が高く、患者の生存率はかなり低いことが大きな問題になっています。対策としては、乳がん検診の普及がありますが、例えば、いまある病院がマンモグラフィーの設備を増やすのはコスト的にも大変ですし、女性にとっても身体的、精神的に負担の大きい検査です。それに対して、サーモカメラは普及しています。そこで、ニラマイは、サーモカメラによって取得された熱画像を集積し、AIによって解析して細胞のわずかな異常を検知するシステムを構築しました。

 これも、スタートアップによって行われたジュガールのビジネスだと思います。いまある設備でも、AIなどの技術を組み合わせれば、100%ではなくても活用できる、という発想から生まれています。また、市民の側にも、それを許容するおおらかさのようなものがあるのです。

 日本であれば、新たな検査設備を開発するところから始めるでしょう。その方が、検査精度を上げたり、患者の厳しいニーズに応えることもできるようになります。

 しかし、そのような完璧主義では、時間とコストがかかるのです。一方、AIなどの技術の進展は、先行投資や開発時間を大幅に省くことを可能にしています。それによって生まれたシステムを許容するのは、文化的側面や国民性なのかもしれません。

 しかし、拙速でも、まずやる、ダメだったら改良したり、別の方法を考えれば良い、というインドのジュガールの精神が、いま、若い有能な人材を活かし、イノベーションにも繋がる機会を増やしているのは確かだと思います。

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