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モノ言う株主の台頭 ―会社法改正で変わる企業統治―

河内 隆史 河内 隆史 明治大学 名誉教授(元専門職大学院 法務研究科教授)

新たな企業統治システムの提案

 今回の会社改正法案で最も注目されるものの一つは、コーポレートガバナンス、いわゆる「企業統治」の新しいあり方を盛り込んでいる点だ。
具体的に改正法案は、「監査等委員会設置会社」の創設を提案している。現行法での監督機能は、「委員会設置会社」(改正法案では「指名委員会等設置会社」と改称されている)と「監査役設置会社」の2類型がある。「委員会設置会社」は取締役会の中に社外取締役が過半数を占める3つの委員会を設置し、取締役会が経営を監督する一方、業務執行については執行役に委ねる株式会社だ。他方「監査役設置会社」は、業務監督を行う監査役を置く株式会社、もしくは会社法の規定により監査役を置かねばならない株式会社で、日本の9割以上の企業が採用している。
改正法案に盛り込まれた「監査等委員会設置会社」の眼目の一つは、取締役会による監督機能強化の手段として社外取締役の導入を促進するところにある。会社法改正の議論においては、相次ぐ企業不祥事への批判や反省を背景に、会社から一定の距離を置いた冷静な視点が、不祥事防止をはじめとした企業統治のカギになるという声が強くなった。すなわち社外取締役である。「監査等委員会設置会社」の監査等委員会は、取締役である監査等委員3人以上で構成され、かつその過半数は社外取締役でなければならないとされている。さらに、社外取締役は、親会社や兄弟会社の関係者でないことや経営者の近親者でないことを要件としており、独立性・公正性の強化も図られている。経営者の指揮命令系統に一旦属したことがあっても、10年経過していれば社外取締役の機能を果たすことが可能だ。
現行法の2類型に加えて、改正法案は新たに「監査等委員会設置会社」という第3の類型を加えることにはなるが、かなりのコストがかかるので、大多数を占める「監査役設置会社」から移行する企業は限られるだろう。「委員会設置会社」よりは組織に弾力性があるので、「委員会設置会社」からの乗り換えは十分予想される。いずれにせよ、新たな企業統治システムが提示された意味は小さくない。内部統制なども含めた、企業統治のあり方を見直し再考する機会となると思われる。

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