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ネットの店舗化、店舗のメディア化が始まっている

菊池 一夫 菊池 一夫 明治大学 商学部 教授

ネットと実店舗の有機的な統合

 実店舗の体験は五感に訴えるものだけではありません。人がものを購入するのは、多くの場合、なんらかの問題解決です。美しく装いたい、快適になりたい、空腹を満たしたい、だから、そのためのものを購入します。

 しかし、例えば、子育てに悩んでいるお母さんは、最初から必要なものがわかっていて購入する人ばかりではありません。子どもが、よく寝るために、よく食べるために、どうしたら良いのか、情報やアドバイスが必要な場合も多いのです。

 そのとき、お母さんにとっては、ネットの膨大な情報の中から検索するより、お母さんや子どもの顔色や表情を実際に見ながら、アドバイスしてくれる人の方が力になるはずです。それによって納得したものの購入に繋がり、それは問題解決にも繋がります。

 悩みを聞いてもらってアドバイスをしてもらえる体験を、店員や専門家を通してお母さんに提供できるのも、実店舗の強みになるのです。

 また、ネット通販をライバルのように捉えるのではなく連動することも、今後の実店舗にとっては重要な取り組みになると思います。

 例えば、顧客にとっては、ネットで調べて実店舗で購入したり、その逆もあり、購入パターンは自由になってきています。企業側はそれに対応することが必要です。

 それはオムニチャネルと言われ、以前から取り組みが行われてきましたが、ネットと実店舗の有機的な統合ができている企業は、まだ十分にはありません。

 その大きな障害は、例えば、実店舗の店員の接客が良く、顧客に購入する気を起こさせても、後日、ネット通販で購入されると、店員には売り上げがつかず、店員のやりがいや達成感が上がりません。ノルマなどがある場合はクリアできなくなります。

 そのため、ひとつの会社でチャネルごとに顧客を囲い込むようなシステムをつくってしまい、例えば、ネットと実店舗で別個に顧客情報を取って管理するようなところもあるのです。

 これでは、ネットと実店舗の一元的な顧客管理ができず、オムニチャネルとしてのサービスを提供することも難しくなります。

 例えば、ネット上では、顧客の個人情報から、その顧客がどんな商品を閲覧していて、どの商品を実際に購入したのかまで、詳細な顧客情報を取ることが比較的容易です。その情報を実店舗の店員が共有できれば、その顧客に適した体験の提供がしやすくなります。

 実際、顧客はオンラインを経由して予約して来店するケースが増えている現在、店員にiPadなどを持たせ、顧客情報を事前に共有して接客するシステムを実用する企業も出てきています。

 店員が納得するインセンティブのシステムや、顧客情報の共有システムを構築することは、その会社が、どのようなビジョンをもち、それを推進するためにはなにが必要なのか、ということを明確に捉えることで、はじめて可能になります。

 すると、ネットが店舗になったり、実店舗がメディアになるような有機的な統合が実現でき、それぞれのチャネルを有効に機能させることも可能になります。

 大事なのは、DX(デジタルトランスフォーメーション)が流行っているから、うちもやらなくては、というようなことではないことです。

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