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より良い労働条件獲得のために、ストライキよりさらに有効なこと

野川 忍 野川 忍 明治大学 専門職大学院 法務研究科 教授

ストライキによってより良くなった労働条件

 つまり、労働組合の本質は、団体交渉です。会社側と交渉し、労働条件をより良くしていくことが労働組合の活動の中心であると言えます。

 そのために、労働組合は、まず、会社側に対して何%の賃上げ要求をするかなど、要求内容を組合員で合意形成します。

 要求内容が決まれば、会社側に交渉を呼びかけます。憲法で認められている団体交渉権によって、会社側は労働組合の交渉に応じる義務があります。

 しかし、だからといって、会社側は労働組合の要求を飲む必要はありません。要求に一切応じられないという交渉もあります。

 交渉が平行線となり膠着したとき、交渉の武器として労働組合に認められているのが争議権、すなわちストライキです。

 労働者が一斉に仕事を放棄するのですから、会社の業務はストップし、収益を上げられなくなります。会社にとっては大きな打撃です。

 一方、労働者側にとっても、仕事を放棄するのですから、その間の賃金は貰えなくなります。仮に、会社側が頑なで交渉が平行線のままだからといって、いつまでもストライキを続けていられるわけでもありません。

 つまり、ストライキは労使双方にリスクがあるのです。だから、ストライキは実際に行うことに意味があるというより、互いにリスクを負うよりは、交渉の中で妥結点を見つけることを促す装置として意味があると言えます。

 しかし、歴史を見ると、ストライキによって獲得され、いまに繋がる労働条件はたくさんあります。

 例えば、1868年にイギリスで起きたストライキは、労働組合法やストライキ権を認める法律の制定に繋がりました。

 いまでは労働時間の基準は8時間が当たり前のようになっていますが、8時間労働を要求したストライキが1886年にアメリカで起きています。このストライキは、現在のメーデーのきっかけにもなっています。

 日本でも、同じ1886年(明治19年)に、国内で初めてのストライキが行われています。山梨県の製糸工場で働く女性たちが、長時間労働や賃金の値下げに抗議したのです。日本における工場労働の初期から、女性たちは労働条件の改善を訴えていたわけです。

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