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アベノミクスを斬る ―「三本の矢」は的を射るか、日本経済は再生するか―

田中 秀明 田中 秀明 明治大学 専門職大学院ガバナンス研究科 教授

国の借金と個人金融資産が逆転 海外から借金する事態が到来

 周知のように日本は約1,000兆円の莫大な借金を抱え、年々その額は拡大している。これほどの借金を抱え、なぜギリシャのように破綻しないのか。それは借金の約9割超は国内でまかなっているからである。言い換えれば、日本国債のほとんどが国内で消化され、海外に頼っていないことだ。しかしそれゆえに安泰というわけではない。日本の個人金融資産は約1,500兆円あると言われているが、5~10年の間で、国の借金が個人金融資産を上回る可能性を指摘する声は少なくない。そうした事態になれば、国内に日本国債を買う余力がなくなり、海外から借金することになる。それは、海外との経済取引を表す経常収支が赤字になることを意味する。経常収支が赤字になったからといって、直ちに危機が来るわけではないが、問題は海外の投資家が日本に対して低金利でお金を貸してくれるかである。米国は、現在、経常収支が赤字であるが、経済危機になっているわけではない。それは、米国という国が持つ経済のダイナミズムや潜在的な成長性が高く評価され、海外の投資家がお金を貸してくれるからだ。翻って日本はどうであろうか。世界第三位の経済大国とはいえ、高齢化と労働人口の減少に拍車がかかっている状況だ。そうした状況で、経常収支が赤字になったときに、海外の投資家が日本の潜在的な成長力を信じてお金を貸すだろか。残念ながら、私は懐疑的である。ギリシャなど財政悪化で危機になった国に共通するのは、経常収支が赤字になり、金利が上昇し、財政赤字をファイナンスできなくなることである。

多岐にわたる「成長戦略」政策 政府は全知全能の神なのか

 話をアベノミクスに戻そう。第一の矢と第二の矢は、いずれにせよ時限的な措置である。最も重要なのが、第三の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」である。「成長戦略」は、これまでに第一弾から第三弾へと段階的に発表され、昨年6月に「日本再興戦略」としてまとめられた。また、それを具体化するための法律も、昨年の臨時国会で成立している。この成長戦略の中身は多岐にわたり、かつ膨大であり、これでもかというほどの政策が提案されている。チャレンジングな数値目標などもあり、安倍総理の強い意気込みも感じられる。政権が「成長戦略」を重視していることは確かだろうし、優れた提案もあるが、政府に成長する産業分野を決めることなどできるのだろうか。政府の文書を読むと、政府は全知全能の神であり、何でもできると考えているように思える。

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