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グローバルとローカルの出会いを実りあるものにするグローカリゼーション

鷲見 淳 鷲見 淳 明治大学 経営学部 准教授

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以前から、企業の国際経営において「グローカリゼーション」が重要であると言われています。しかし、その捉え方は難しく、本質的な理解ができていないために失敗する企業が多いと言います。あらためて、「グローカリゼーション」の本質を考えてみましょう。

海外進出で、相反するニーズを両立させる考え方

鷲見 淳 グローカリゼーションとは、グローバリゼーションとローカリゼーションという二つの言葉を組み合わせた造語です。

 一般に、グローバル化とは、グローバル・スタンダード、いわゆる世界基準とか共通化のことと捉えられていますが、グローカリゼーションが意味するところのグローバルとローカルはちょっと違います。

 ある国の企業が他国に製造拠点を設けたり、他国の市場に進出していく際、現地に適応する必要性と、自国のやり方を現地に移植する必要性といった、2つの相反するニーズをどのように両立させるのか、という問題を指しています。

 これは、業種や職種によっても、現地のだれに対しての対応なのかによっても、問題の観点が異なってきて、一概に正解を言えない複雑さがあります。

 例えば、日本企業がアメリカに進出した歴史を振り返ってみると、全般的には、工場などの生産現場のいわゆるブルーカラー労働者にとっては、日本企業の安定的な雇用は魅力であり、職場のチームの活用、品質管理など、日本的なやり方が根づく傾向にあります。

 一方、オフィスのホワイトカラー従業員にとっては、仕事のやり方、時間の使い方、意思決定の過程などの面において、日本的なやり方とアメリカ的なやり方の衝突が顕著に見られます。

 つまり、同じアメリカに進出するときでも、ブルーカラーに対してと、ホワイトカラーに対してでは、日本的なやり方がどれだけ持ち込めるのか、どれだけ現地のやり方を取り入れるのかは、異なってくるのです。

 また、アジアの新興国に進出した場合は、日本から派遣されたマネージャーは、現地の従業員にとっては別格で、言われたことを機械的にこなすという関係になるケースが多かったのです。

 一見、日本のやり方を現地に押しつけているように見えますが、実は、東南アジアなどでは、職場でのそうした主従関係のようなスタイルは伝統的な仕組みで、その意味では、むしろ、現地のローカル・スタイルを全面的に取り入れたやり方と言えるのです。

 ところが、近年、いくつかの日本企業は、日本国内で行っているような取り組みを導入しています。

 ひとつは福利厚生の充実であり、また、仕事においては、現場の従業員に指示を出すだけでなく、課題などを与え、自発的に考えさせるやり方です。

 日本ではTQC活動などで知られている品質管理のやり方ですが、東南アジアの人たちにとっては新鮮でした。

 これによって、管理職に対する敷居が下がり、親近感が生まれるとともに、会社に対する参加の意識や一体感も高まり、仕事への意欲が向上したのです。

 日本的なやり方を取り入れたことによる成功ですが、さらに、もうひとつの要因があります。

 実は、東南アジアには、伝統的に、家族を重視する文化があります。福利厚生を充実させたことで、会社による従業員家族への支援が厚くなり、それが従業員のロイヤリティを高めたのです。

 また、従業員に一体感が生まれたことで、管理職を含めた社員みんなが家族という意識が広がったのです。

 つまり、この取り組みは、日本のやり方を現地に移植した面とともに、現地のニーズに適応した両面があり、だからこそ成功したと言えます。

 自分たちのやり方と現地のやり方の接点を見出し、融合させる、こうした取り組みがグローカリゼーションの本質であり、醍醐味であると言えます。

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