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渋沢栄一に学ぶ、多様な立場、多様な経験を活かす生き方

明治大学 経営学部 教授 佐々木 聡

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2024年度に刷新される予定の紙幣の肖像が、渋沢栄一、津田梅子、北里柴三郎に決まりました。3人それぞれ足跡を残した分野は異なりますが、共通するのは、学校の創設に関わるなど、人材育成に尽力したことです。日本の資本主義の礎を築いた渋沢栄一にとって、人材育成とはどのような意味があったのでしょう。

討幕派だった渋沢が幕臣になり渡欧して成長

佐々木 聡 渋沢栄一は、日本資本主義の父と言われますが、その足跡は意外と知られていないのではないでしょうか。幕末から明治という激動の時代にイノベーションを起こした渋沢の活動は、現代のビジネスマンにとっても学ぶべき点が多いと思います。

 渋沢は、1840年(天保11年)、現在の埼玉県深谷市で生まれます。

 渋沢家は農民層でしたが、地元の名家です。とはいえ経済的には苦しかったのですが、渋沢の父が、染料である藍玉の取引に成功し、財をなします。

 そうしたなか、渋沢は、いとこにあたる尾高惇忠(のちに富岡製糸場の初代場長となる実業家)に影響を受けて学問に励むとともに、13歳になると江戸に出て千葉道場に入門し、剣術の修行も始めます。

 つまり、渋沢は身分は農民ですが、士農工商の枠に囚われないマージナル・クラス、いわゆる限界的身分層であったと言えます。

 渋沢が江戸に出た1853年(嘉永6年)はペリー率いる黒船が江戸に来航した年で、世の中が騒然となっていく時期です。

 渋沢も意識の高い人々と交わるなかで知識と意識を高め、倒幕活動にのめり込んでいきます。実際、過激な計画に参加し、実行する寸前までいったこともあったようです。

 つまり、当時の若い武士層の一種の流行のようだった尊王倒幕に、若い渋沢も染まっていたのです。

 さらに、勤王の意識が強かった一橋家の平岡円四郎(慶喜の側近)と知り合い、その手引きで、禁裏守衛総督である慶喜の家臣になります。

 ところが皮肉なことに、その慶喜が15代将軍に就き、渋沢は幕臣になってしまいます。

 さらに、転機が訪れます。1867年(慶応3年)、パリ万博に参加する日本代表団の随行員に任命されたのです。

 渋沢27歳のことですが、このとき、パリをはじめヨーロッパ各地を見て歩いたことは、渋沢に非常に大きな影響を及ぼします。いうまでもなく、ヨーロッパの進んだ社会システムや文化、技術を目の当たりにしたのです。

 このときの日本の随行員の多くがヨーロッパの政治制度に着目したのに対して、渋沢は、経済の制度や仕組みに着目します。それは、実家が藍玉の取引を行い、財をなしたという経験があったからかもしれません。

 ヨーロッパの会社組織や銀行の機能、運輸や通信の重要性など、ビジネスや経済の仕組みに素直に驚き、感心し、それらを貪欲に学んだのです。

 そのとき、渋沢は、見て学ぶだけでなく、様々な人に会い、直接教えを受けたのだろうと思います。だからこそ、短期間で、ビジネスや経済の基盤となる核心を捉えることができたのだと思います。

 それが、のちに渋沢の基本概念となる「共力合本」に繋がっていきます。

 そして、人と交わることによって、人は情報を交換するだけでなく、教えたり学んだりしながら成長することの重要さを、実感したのだと思います。

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