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株式投資は「愛ある金融」に変わり始めている

明治大学 商学部 教授 三和 裕美子

私たち一人ひとりがESG投資に関心をもつことが大切

三和 裕美子 日本での状況が変化したのは、2015年に、国民年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が国連の責任投資原則に署名したことがきっかけです。

 GPIFには国民から集めている国民年金の資金が150~160兆円あり、その約半分を株式に投資して運用している世界でも最大の機関投資家なのです。

 このGPIFが国連の責任投資原則に署名した影響は大きく、つづけて国内の機関投資家数社が署名しました。署名すると、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)が投資判断の項目として加えられるようになります。

 具体的には、各機関投資家は、企業の開示情報と、企業との対話や調査を基に、E、S、Gそれぞれの項目を数値化します。

 例えば、Eの項目であれば、環境報告書を作っているか、それが充実しているか。Sの項目であれば、管理職の女性比率はどのくらいか、女性の活躍を推進しているか。Gの項目であれば、機関投資家側の提言や対話(エンゲージメント)に応じて改善がなされるか、といった内容です。

 つまり、従来は財務情報を基に行われていた投資判断に、非財務情報である企業の社会的責任も加えられるということです。

 こうした傾向は、株主利益第一主義という従来の価値観が転換し、企業活動とはただ収益を上げるだけではなく、人も社会も大事にすることで、みんなを豊かに、幸せにしていくことであり、そうした企業に投資という形でお金の流れをつくるという価値観が浸透し始めたということなのです。

 もちろん、こうした動きが進む中でも、企業の不祥事は後を絶ちませんし、投資家の短期的な売買に端を発したリーマン・ショックのような金融危機が起こることもあります。まだまだ、利益第一主義の投資が続いていることは事実です。

 しかし、ESG投資の額が、年々着実に増えていることも、また事実なのです。この変化が、人も社会も幸せにする動きであれば、その変化は止まることはないはずだと思います。そして、それを推進していくのは私たち一人ひとりなのです。

 各機関投資家が独自に行っているESGの数値化は一般に公表されることはありませんが、様々な企業に対してESGの項目ごとに詳細なアンケートをとり、その答えを基にランキング化したCSR(企業の社会的責任)総覧を毎年公表している出版社もあります。個人投資家は、こうした情報を基に投資判断をすることができます。

 また、ESGを基にしたファンドもつくられています。個別企業への投資は難しいという人も、ファンドなら買いやすいのではないでしょうか。

 大切なのは、投資は自分には関係ないことなどと思わずに、こうした動きに関心をもつことです。すると、日頃の買い物でも、ESGにおいて評価の高い企業の製品を買うこともできるようになります。

 昔から日本には、近江商人の心得であった「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の「三方良し」があります。まさに、現代でも、企業の従業員も顧客も投資家も社会も、みんなが良くなるためのお金の流れが理想と考えられるようになってきたのです。

 私はそれを「愛ある金融」と呼んでいます。これが絵空事かそうでないのかは、私たち一人ひとりの思いと行動で変わるのです。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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