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株式投資は「愛ある金融」に変わり始めている

三和 裕美子 三和 裕美子 明治大学 商学部 教授

タンカーの座礁を契機に重視され始めた社会的責任投資

 1989年、エクソンモービル社のタンカー、バルディーズ号がアラスカ沖で座礁し、積んでいた原油がアラスカ州プリンスウィリアム湾に流れ込みます。黒くドロドロした原油が海を覆い、鳥や海の生物が油まみれになる光景がテレビで世界中に流されました。

 それを見て、ボランティアが世界中から集まって来ましたが、そのボランティアたちが、黒い油まみれの生き物たちを一羽ずつ、一匹ずつタオルで拭くことぐらいしかできない映像も流れます。

 そのとき、人々は、一企業の事故が地球環境に取り返しのつかない影響を及ぼすことを目の当たりにして、環境問題に対する関心を高め、地球環境を考慮した企業経営を求める声を上げるようになります。

 それを反映して、つくられるようになったのがエコファンドやグリーンファンドと言われる社会的責任投資信託の一つです。すなわち、利益率を第一に考える従来の投資信託に対して、利益率だけでなく、環境を考慮した活動を行う企業を投資対象にしたのです。

 つまり、株式投資とは、投資家が企業に対して利益を求めるだけではなく、企業に対して社会的責任を求め、それに応える企業を応援するという側面をもつようになったのです。

 この動きは日本でも起こり、1999年に、日興證券が「日興エコファンド」を売り出しました。しかし、日本ではエコファンドに対する関心は高まりませんでした。株式市場の低迷により、個人投資家にとっては投資信託購入しづらく、また機関投資家は社会的責任投資信託に投資することが受託者責任に反する可能性があるという事情があったからです。

 しかし、世界では、この動きは高まっていきます。2006年には、国連が責任投資原則を打ち出します。それとともに、持続可能な社会を実現するための国際的な取り組み目標であるSDGsに対する認識が高まり、投資対象の企業として、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)を重視するESG投資が注目されるようになるのです。

 実は、もともとヨーロッパには、ユダヤ教、キリスト教の宗教的な価値観から、「タバコを作っている会社」、「アルコールを作っている会社」、「武器を作っている会社」には投資しないというネガティブ・スクリーニングの考え方がありました。

 この考え方は、ファンドがつくられるようになった現代でも脈々と受け継がれ、アメリカで1928年に、アルコールとタバコを製造する企業を投資対象から排除する「パイオニア・ファンド(Pioneer Fund)」がつくられるなど、SRI投資(Socially Responsible Investment:社会的責任投資)の歴史があったことが、日本との大きな違いです。

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