
近年の急激な気候変動は、地球上の植物に過酷な試練を与え続けています。猛暑、干ばつ、塩害、そして病害虫の発生、こうした環境ストレスの増大に対し、既存の農業技術だけでは食糧生産の安定を維持することが難しくなりつつあります。これから先、持続的な食糧生産技術を確立するためには、植物がさまざまなストレス下で発揮する「細胞レベルの適応機構」への理解を深めることがより重要となるでしょう。その鍵を握るのが、植物の「自食作用(オートファジー)」という仕組みです。
植物はオートファジーで環境ストレスに適応している
生物の細胞に備わる「オートファジー」とは、自身の細胞内の成分を分解・リサイクルする機構のことです。これまで主にヒトのがんやアルツハイマー病といった疾患との関わりから動物での研究が盛んに行われてきましたが、私たちは、「オートファジー機能を欠損した変異体植物」を用いることで、植物特有の生存戦略を解明しようとしています。
このプロセスの始まりは、細胞内に現れる「オートファゴソーム」という小さな袋状の膜です。この袋が不要になった細胞成分を取り囲み、細胞内のゴミ処理場/リサイクル場とも言える「液胞」へと運びます。液胞の中でそれら成分はアミノ酸や無機栄養素にまで分解され、再び細胞の必要な場所へと供給されるのです。
オートファジーには、大きく分けて二つの役割があります。一つは、植物が栄養飢餓に陥った際に行う「一括リサイクル」です。例えば、亜鉛が不足した植物は、オートファジーによって既存のタンパク質や細胞小器官から亜鉛イオンを回収し、生命維持に不可欠な別の分子へと再分配します。もう一つは、細胞内を常に新しく保つ「品質管理」の役割です。強すぎる光で傷ついた葉緑体や、特定の細胞小器官(ミトコンドリアやペルキシソームなど)をピンポイントで分解・更新することで、細胞の劣化を防いでいるのです。
自ら動いて環境を変えることができない植物にとって、この「内なるリサイクル」こそが、過酷な環境を生き抜くための最大の武器と言えるでしょう。
将来的には、オートファジーを人為的に制御することで、強靭なストレス耐性をはじめさまざまな適応力をもった植物を生み出すことをめざしています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
