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地方公務員の働き方改革は社会改革につながる
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総務省の調査によって、地方公務員の働き方改革が、民間企業などに比べて遅れている状況が明らかになってきました。私たちの生活に密着するサービスを担っている地方公務員の業務が、いま、どうなっているのか考えてみましょう。

高まる、地方自治体に対するニーズ

出雲 明子 地方公務員の業務というと、区役所や市役所の窓口業務を思い浮かべる人が多いと思います。すなわち、業務時間は9時から5時などと決まっていて残業などはなく、雇用も安定している仕事というイメージでしょう。

 しかし、実際は、そうしたイメージとかなり違っているのです。

 まず、簡単な書類や証明書などの受け渡しなどを行う、いわゆる窓口業務は民間に委託している地方自治体が増えています。決められた時間の業務委託ですから、例えば、5時で窓口業務は終了するのです。

 では、正規の職員はなにをしているのかというと、窓口で機械的に処理できない案件を担っているのです。

 例えば、生活保護や子育て支援などの福祉関連において、いわゆる、マニュアル化できない市民サービスの部分です。

 そもそも、地方自治体の重要な役割のひとつが、様々な理由で生活が困窮したり、社会的弱者と言われる状況にある人たちを支援するセーフティーネットとしての機能です。近年は、そうした部分の業務が増大しているのです。

 その背景には、まず、地方分権があります。1990年代から、国から地方へ、権限や財源の移管が進められてきました。それによって、住民サービスはよりきめ細かくなっていったのです。

 また、その頃から、社会は、少子高齢化や格差の拡大が急激に顕著になり、高齢者や子育て支援、ひとり親や引きこもり対策、生活保護など、福祉分野の業務が増大し、その対応が急務となっていったのです。

 つまり、住民サービスの主体である地方自治体の権限が高まるとともに、そのニーズも非常に高まってきている状況なのです。

 ところが、地方公務員の人員は、財政的な問題により、1994年をピークとして年々減少し続けたのです。すると、当然、職員ひとりひとりが担う業務量はどんどん増えていくことになります。災害も頻繁で、災害対応に多くの時間が割かれました。

 さすがに、2017年に久々に人員増加に転じましたが、窓口業務の委託などは、こうした状況の中から出てきていたのです。

 一方で、社会では、企業の長時間労働や過労死、労働力不足、労働生産性の低さなどが問題視されるようになっていきます。しかし、それは民間企業だけの問題ではなく、実は、地方自治体でも同じ状況だったわけです。

 その対策として、民間企業では働き方改革が進められ、ICTやデジタル機器の導入が進み、働く意識改革も浸透していきます。

 ところが、地方自治体では、そうした働き方改革がなかなか進みません。そこには、あくまで利益を追求する民間企業と、住民サービスという業務が中心の地方自治体の違いがあると言えます。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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